賀川先生「卓上語録」(1) 田中芳三編

 紀州粉河の同志たち

 二十数年間交わっている紀州粉河のイエスの友の同志、武本昭夫氏は、数年間に亘って修養会の私の話を全部筆記して9冊の謄写版刷りにしてくれた。その武本昭夫氏をイエスの友に導いた田中芳三氏は、大阪市阿倍野区文の里の自宅に泊まってくれと昨年の11月、新しい浴室までつくって私を歓迎してくれた。
 私は粉河の牧師児玉充次郎氏とは、50年来の親友である。先年、私が粉河に巡回して行った時、児玉氏はリウマチを患って寝ていた。それでも無理をして起きて来て私を歓迎してくれた。それっきり彼の病気は全快し、80歳の老齢で彼は盛んに伝道している。
 この仲間の感激的な交友にキリスト愛の美しさを見る。全く地上の天国を見るような気持ちになる。田中芳三氏は、私の病気が少し悪いと聞いては泣いてくれ、少しよくなったと言っては泣いてくれる。こんな感受性の強い若い同志を持っていることは全く感謝である。
 彼は私が彼に話して事の凡てを記憶し、あの時にはこう言った、この時には聖書を引照してこう言ってられた、とよく昔話をしてくれる。私とは年齢が30近くも違っているが、私はこんなに深く思ってくれる友人があると思えば、生き甲斐のあったことを思う。神の国運動は芥子種の運動である。しかし蒔いたものが生えてくることでけは事実である。有り難いことだ。

 文の里 阿倍野のほとりに風呂たてて
   最初に入れと 友はほほえむ 賀川豊彦
   (1957年2月2日 キリスト新聞新聞より)

(『神わが牧者 賀川豊彦の生涯と其の事業』田中芳三編から転載)