私の科学の第一ペーヂ

  八六 私の科学の第一ペーヂ

 平凡なる周囲の事物の研究から、私の科学の第一ペーヂを初めたい。私は、自分の立つてゐる土の性質に就いて知り度い。小石に刻まれたる断層の起原に就いて学び度い。路傍の雑草の生活内容に就いて、その秘密を教へて貰ひ度い。自分の頭上に輝く星の世界を知り尽し度い。
 何故、今日の大学では、土と、雑草と、小石と、星に就いて、もう少し深く教へないだらうか。自然科学と云へば、抽象的なこと許り教へて、我々の眼界に現はれてゐる、極手近な世界に就いては、何等教へて呉れる所がない。然し私の知り度いのは、そんな飛び離れた心理に就いてではない。私は、土と小石によつて啓示せられたる物質の成立に就いて、知りたいのである。小石の上に刻まれた、波紋の経路には、地球の成立と並行した古い歴史があるに違ひない。私はそれに就いて知りたい。荒地に繁茂して行く『あれちの菊』の生命の中には、人間が究知し得ない神秘の影が秘められてゐるに違ひない。生れて幾十年、毎晩の様に星を仰いで、その名も知らない我々の不欄さよ、あゝ、私は平凡なことが知りたい。平凡の平凡に属する、私の周囲にある凡ての事象に就いて知りたい。
 願はくば、土と、木と、火と、金と、水と、風の精の私に囁かんことを!