復刻第二弾『空中征服』、4月28日ごろ

  『死線を越えて』(4月7日)に続いて、賀川豊彦の復刻版の第二弾、『空中征服』が不二出版から4月28日ごろ出版されます。賀川は『死線を越えて』で、大正期のスラムの貧困という重いテーマに取り組みました。『空中征服』も当時の大阪の公害問題や市政をめぐる官民の汚職・癒着などがテーマとなっていて同じく重たいのですが、奇想天外な筋書きで抱腹絶倒、読者を最後まで飽きさせません。復刻版に解説を寄せた神戸文学館の義根益美学芸員は以下のように語っています。
 復刻されるのは、1989年、日本生活協同組合連合会が出版された『空中征服』です。1922年出版の改造社版の復刻ではないのは、日生協版のあとがきで賀川純基氏が、「多くの人、特に若い人に読んで頂きたいと、読みにくい文字をやさしいものに替え、かなづかいを現代のものにし」たと、書いておられた理由と同じです。改造社版は、総ルビではありますが、旧字、旧仮名遣いですから、そういう表記に慣れていない人達にとっては読みにくいこともあり、日生協版の復刻になりました。
 改造社が1922年〜23年にかけて出した新聞広告には、「肩のこらぬ極めて軽く読める小説ですが、読後に必ず何等かの思想と何等かの心臓の鼓動が迫って」くるという宣伝文句を載せています。煤煙問題をCO2排出問題に置き換えた環境問題に、スペースシャトル打ち上げなどの宇宙開発などを関連させながら読むと、賀川純基氏の「まるで現代社会を皮肉に描写しているよう」という感想も納得です。

 賀川豊彦がみた『空中征服』の夢に、多くの人々が笑い、そして何かを得ただろうと思います。痛烈な皮肉だと、受け止めた人もいたと思います。大正時代当時の人々と、私たちは随分異なった社会に生きていますが、人間社会の根底をなすものは大きく変わらないことがわかる1冊です。『空中征服』の世界を通じて、私たちが生きている社会というものを見つめ直す機会になれば幸いです。