1月6日付け徳島新聞 「鳴潮」

 徳島で幼・少年期を過ごし、日本の社会運動のパイオニアとして知られる賀川豊彦(一八八八−一九六○年)が神戸のスラム街に住み込み、活動を始めてから今年で百年になる

 これを記念して、賀川ゆかりの徳島、神戸、東京で「献身百年」記念事業が展開される。県内では、ベストセラーとなった自伝的小説「死線を越えて」が復刊されるほか、鳴門市賀川豊彦記念館や県立文学書道館で企画展が開かれる

 賀川豊彦といっても、その業績はあまり知られていない。活動が膨大なこともネックになっているのだろう。貧民救済活動、生協運動、労働組合運動、「世界連邦」の提唱など、ありとあらゆる運動の草分け的存在となった。日本よりも海外での評価が高く、ノーベル平和賞候補にも挙げられた

 活動の原点となったのは、旧制徳島中学時代に米国人宣教師から受けたキリスト教の洗礼だ。吉野川流域の自然も賀川の感性をはぐくむのに役立った

 賀川は戦後こう言っていたという。「日本は豊かになる。しかし、日本人の心は貧しくなる」。その予言は的中した。しかも急激な景気の悪化で、今年は貧困や格差の問題がいっそうクローズアップされそうだ

 そんな年の「献身百年」は単なる偶然とは思えない。時代が賀川を呼び寄せたともいえる。賀川を知り、賀川に学ぶ絶好の機会になりそうだ。