力強い写真 【日経新聞社・交遊抄】=鳥越皓之

 夕方、今日(3月18日)の日経新聞の「交遊抄」に賀川督明さんが載っているとのメールをもらった。日経の最終面は「私の履歴書」と連載小説「韃靼の馬」を毎朝読んでいるが、今日の「交遊抄」は見逃していた。

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 写真の評価には好き嫌いがあってもよい気がする。私がとても好きだと思う作品を撮る写真家にトクさんこと、賀川督明さんがいる。私は水利用の文化の研究をしており、その関係で、ミツカン水の文化センターの活動にかかわっている。グラフィックデザイナーの彼はそこで写真を担当している。
 彼の写真では水の粒がモゴモゴと動いているように見える。奥さんの一枝さんの言を借りれば、トクさんは写真を撮るときには、頭の中が真っ白になっていて、その間、自分が何をしているのか分からないのだという。物騒な写真家であると思うが、その作品は透き通っていて力強い。
 彼とは互いに時間が合うときに、酒のグラスを傾ける仲だが、話していても作品同様、真っすぐな人柄が伝わってくる。
 聞けば彼は賀川豊彦の孫で、今神戸の「賀川記念館」での展示準備に奔走しているという。そういえば以前、ハワイで日系移民の調査をしたとき、豊彦に会って人生観が変わったという老人に遭遇したことがあった。豊彦は人間のトラブルのもとは「我」なので、我を取れと教えたそうだ。
 トクさんの写真にも人間の生存を凝視する力があり、文字通り血は争えないと思った。(とりごえ・ひろゆき早稲田大学教授)