賀川豊彦 今こそ再評価 徳島新聞1月3日付け朝刊1面トップで

 賀川豊彦 今こそ再評価 関連団体、多彩な顕彰事業を予定 1月3日付け徳島新聞
 徳島新聞1面トップのPDF
 徳島県で幼少時代を過ごし、近代日本に大きな足跡を残した社会運動家賀川豊彦(一八八八−一九六〇年)。二〇〇九年は、貧困者を救うため賀川が神戸のスラム街に移住してから百年を迎え、全国の賀川関連団体が「献身百年記念」として多彩な顕彰事業を予定している。さらに、節目の年の目玉企画として、賀川が大正期に出した自伝的小説「死線を越えて」が今春、復刻出版されることも決まった。「格差社会」の現代にあって、貧困の解消や弱者救済に生涯をささげた賀川の功績を再評価する契機となりそうだ。

 神戸市で生まれた賀川は、四歳から旧制徳島中学校卒業まで徳島で過ごし、活動の基盤を築いた。神戸・新川のスラム街に入ったのは一九〇九(明治四十二)年十二月。以来、十三年余りにわたり救済事業を展開し、献身的な活動を続けた。

 「献身百年」に当たっては、徳島をはじめ、東京と神戸の両プロジェクト実行委員会が記念事業を予定。「賀川の功績をいま一度、たたえたい」「徳島は賀川の活動の原点であることを県民にも知ってもらいたい」と意気込んでいる。

 県内では、鳴門市賀川豊彦記念館を運営するNPO法人賀川豊彦記念・鳴門友愛会が中心となり「NARUTOプロジェクト」と銘打った記念事業が計画されている。

 賀川は生活協同組合運動や平和運動、労働運動など幅広い活動で知られ、中でも「子どもの人権を一番重視した」(記念館)という。このため鳴門のプロジェクトでは、世界の貧しい子どもたちの救済を目的としたウオーキング大会と特別企画展を中心に据える。

 神戸、東京の両プロジェクト実行委は、今後百年間にわたる開催を目指す「百年シンポジウム」の第一回を三月七−九日に開き、ノーベル平和賞受賞者のバングラデシュムハマド・ユヌス氏を招く。また、ミュージアムネットワーク事業と銘打ち、鳴門市と東京都、神戸市などにある賀川関連施設をネットで結び、所蔵資料のデータベース化を図る。

 昨年は、格差社会のひずみが随所に噴き出し、小林多喜二の小説「蟹(かに)工船」がブームとなった。生涯にわたって社会的弱者の側に立ち、「友愛・互助・平和」を国内外で説きながら活動した賀川についても、再評価する声が高まりそうだ。

 思想見直すべき

 田辺健二・鳴門市賀川豊彦記念館館長の話 混迷する日本や世界の改革を求める声が高まる中、賀川の思想や実践が見直され、「二十一世紀のグランドデザイナー」としても再評価されるべきだ。

◎前半生を投影「死線を越えて」 救貧・防貧の姿描く

 「死線を越えて」は賀川豊彦の前半生を投影した小説。主人公が死の危機を乗り越え、救貧・防貧活動に打ち込む姿が描かれている。一九二〇年に改造社から出版され、大正期最大のベストセラーに。徳島県内の地名も数多く登場する。

 賀川豊彦記念・松沢資料館(東京)の杉浦秀典学芸員らが約二年前から出版を持ちかけ、PHP研究所が出版を決めた。四月ごろに初版五千部をハードカバーの上製本で出版する。価格は千五百円前後の見通し。

 近年まで社会思想社の文庫本があったが、同社が二〇〇二年に事業を停止し、絶版となった。〇三年、NPO法人賀川豊彦記念・鳴門友愛会が、鳴門ライオンズクラブの協力で復刻改訂版(〇八年に第二版)を発行。しかし、一般の書店には流通していないため、出版を望む声があった。

 出版に当たっては、鳴門友愛会などの復刻改訂版を活用する方向で調整が進んでおり、友愛会側も全面協力する意向だ。