貧困との闘い克明に 賀川豊彦著「死線を越えて」復刻 【神戸新聞】

 神戸市生まれの社会運動家賀川豊彦(一八八八-一九六〇年)が大正時代に著した自伝的小説「死線を越えて」が、PHP研究所(京都、東京)から復刻された。一九八三(昭和五十八)年に出た文庫版が今世紀に入り絶版後、待ち望まれていた復刻。生涯にわたり貧困と闘い続けた賀川の実像を知る一助となる。

 賀川が神戸・葺合のスラム街で救貧活動を始めてから、今年で百年を迎えるのに合わせ、記念事業を展開する「賀川豊彦献身100年記念事業実行委員会」が復刻を働きかけて実現した。

 「死線を越えて」は一九二〇(大正九)年、改造社から出版。主人公の栄一が病を克服しながら貧困にあえぐ人々を救う姿が描かれ、賀川の姿勢と重なる。神戸・葺合のスラム街で活動する様子をはじめ、花隈や東出町など県内の地名が数多く登場する。作品は続編の「太陽を射るもの」「壁の声きく時」と合わせ計四百万部以上を売り上げ、当時最大のベストセラーとなった。

 賀川記念館(神戸市中央区)の高田裕之館長によると、賀川は出版の印税収入を活動資金に回し、救貧や労働運動などに一層力を注いだという。

 高田館長は「貧困や格差が社会問題になっている今、本を通じて賀川に出会い、弱い立場の人を助ける行動力などを知ってもらえればうれしい」と話している。

 初版五千部。四百六十四ページ。四六判。千五百円(税別)。(河尻 悟)

 神戸新聞