伴武澄が語る「甦る賀川豊彦の平和思想」(13)

 20年前の1989年、ベルリンの壁が崩壊して以降、国際政治にソ連という対抗軸がなくなり、共産主義が消滅してしまった。中国はもともと市場経済を入れていますから、アメリカ一国主義になってしまった。それで、どういうことになったか。ちょうどそのころ、マネー経済というか、コンピューターを導入した金融システムが非常に発達した時期でもありました。金が金を生むという経済を生み出しました。ついに去年、それが破たんしました。

 金融危機の一方で、国際政治では何が起きていたか。共産主義自由主義陣営との対立が消滅したときに何が起きたか。正義と非正義、正義と悪の二元論になってしまったんです。その場合、いつもアメリカが正義ですね。レーガン大統領もソ連のことを悪と言ったことはあるけれども、これほど露骨に敵対するものを悪、自国を正義と位置付けた大統領はないと思います。ブッシュ大統領は「Axes of evil」と言った。そこにおられる中野さんは、「Axes of evilがあるなら、Axes of Peaceをつくろうではないか」と2002年ごろネットで発言していました。結構受けました。

 結局、これも全部失敗しているじゃないですか。その後イラクはどうなったのですか。アフガンでも平和の糸口は見いだせていません。そこへオバマ大統領が登場しました。日本はもはや普通の国の一つになってしまいそうです。GDPでは年内に中国が日本を追い越すでしょう。これからの日本は経済力で影響力を行使することは難しくなるでしょう。勤勉という美徳はとうの昔に日本から消えているかもしれません。中国人の方がよほど勤勉かもしれない。日本を賛美する多くの形容詞がはげ落ちてきています。はげ落ちたっていいじゃないですか。別に2番手でなくたっていいじゃないですか。3番だって、4番だって、5番だって。

 賀川が目指したのは北欧の国々でした。デンマークであり、スウェーデンであり、ノルウェーです。経済は中規模でもいい。でも国際的に貢献できるような国になろうと言っています。実際ノーベル平和賞の結構多くは北欧の元首相に与えられています。パレスチナの和平への貢献は小さい国だからこそできるのかもしれません。

 だから、日本もそういう奉公を目指せばいいのだと僕は思います。天国の賀川は頑張れといっておられると思います。日本は別に1番や2番でなくていい。だけど、もっと質の高い、クォリティの高い国であってほしいということを賀川ずっと言っていましたから。これがまさに賀川の平和理論だと考えます。一番を目指すから競うのです。2番を目指すのも競うのです。

 スポーツはやはり勝敗が重要かもしれませんが、国もあり方は違います。世界に200国近い国家がある中で時代による栄枯盛衰は必ずあります。人間の体力や能力がある年齢でピークに達して衰えるのと同じように、国にもやっぱり栄枯盛衰があると思います。けれども、年を取っても、あの人の言うことには理があるとか、何かあったときにあの人にちょっと相談してみようということはよくありますね。それと同じような国家を目指せばいいのではないかと僕は思います。

 ちょっと時間をオーバーしましたが以上で終わります。