賀川督明さんの「万人は一人のために」

 昨年11月のシンポジウム「賀川豊彦とともに明日の日本と協同組合を考える」のDVDで賀川督明さんのあいさつを聞き直しました。なかなかいい話なのでThink Kagawaに収録します。
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 2009年の今年は、豊彦が活動を初めて100年の記念すべき年です。その年を大切にしようと賀川豊彦献身100年記念事業を東京、徳島、神戸でさかんに行われています。今日もそのうちの一つです。
 献身100年記念事業の一番大切なコンセプトは、いま私たちが行っている福祉だとか、生活協同組合とか、労働組合とか、いろいろな領域に分けて考えていることを、もう一度同じテーブルについて考えてみようということです。
 100年前、賀川豊彦は仲間たちといろいろな領域の仕事をしてきたが、本当に領域に分けて考えていいのか、いままでここからここまでは福祉の領域、ここからは医療の領域と分け方をしてきたが、本当にそれでよかったのか、これから100年に向けて私たちがどういうふうに歩んで行けばいいのか考えていこうというプログラムです。
 いろいろやってきた中で私は二つのことを感じています。それをぜひお伝えしたい。
 100年前の取り組みは痛みに寄り添うことを大切にしてきたと感じている。私たちは「共に生きる」、「共生」ということを考えていますが、ポジティブに枯渇資源をどういうふうに使えるのか、という部分は考えやすいのだが、痛みの部分、たとえば、ハンセン病のライ予防法が小泉内閣でなくなったが、本当になくなったののか。政策としてはなくなったが実際に隔離は続いています。私たちの心の中にある痛みにどう向き合っていくのか今考えなければ行かないと強く思っています。
 もうひとつは、「一人は万人のため、万人は一人のために」は協同組合だけでなくラグビーなどさまざまなところでいわれるフレーズです。万人のためにという志はすなおに考えることが出来る。私がもっているタレントをどう社会のためにどういうふうに貢献しようか。考えやすいことだが、万人が一人のためには具体的に私がなにをするのかが今一つ見えないと思います。
 協同組合という組織が、ある一人のために生きてくれるだろう。私が直接、その人の痛みに寄り添わなくても組合がやってくれるではないか。そういう錯覚があるのではないか。一人が万人のために万人が一人のために、その両輪、バランスがいま大切ではないか。そういうふうにこの何年か事業に関わってきた思うようになりました。
 神戸では三宮に新しく賀川記念館が立ちます。地域福祉を続けてきた拠点でありますが、そこに新たにミュージアムと総合研究所をつくろうとしています。そこで一番大切にしたいフレーズは「一人は万人のために万人は一人のために」で、組織全体で考えていくことと私自身がどう検証していくのかという二つを考えながら発信していく拠点にしていきたい。この献身100年記念事業が今年で終わることなく、100年を振り返って今を考えているわけですから、100年先のビジョンを考えていくプログラムであってほしい。今日も200年スパンの大きな背景をもって論じられることができたらずばらしいと思います。