眼が見えないことは不自由でない

 『暗中隻語』の序から

『御不自由でせうね!』
『何がですか?』
『眼がお見えにならぬことは』
『人間に翼の無いことも不自由ですね――然し、翼が無くとも飛行機を発明すれば、翼があるのと同じでせう。眼の場合だってさうです。外側の眼が見えなくなれば、内側の眼を発明するまでのことです』
 私の神は光そのものです。外側のものは一切、暗闇に属してゐても、私の心の内側にいつも灯る神のみ光のある問、私は少しも失望しません。
 灯れよ、内側の燈よ灯れ、尽きせざる油壺の燈よ灯れ、私の神はいつまでも、その小さい燈を私のために保護してゐて下さいます。神は私にとっては光そのものです。私は闇に坐る日の永いことを少しも悲しみません。(1926・11・29、武庫川のほとりにて)