神を愛することは「野の百合のようになればいい」

『小説キリスト』から、イエスとマリアの会話

「じゃあ、先生、神様を拝むには、どうすればいいですか?」
 イエスは、また、庭の爪切草の方に顔を向けて、静かに答えた。
「神を愛し、人を愛しさへすれば、それですべてが尽きているのです」
 マリアは、なおもイエスの横顔を見つめて質問を連発した。
「では先生、神様を愛するっていうのは、どうすればいいですか?」
 イエスは、続けて爪切草の葉をみていた。
「それは難しいことはない、野の百合の花のようになればいいんだよ」
 マリアは、疳高い声を張り上げて言った。
「先生、それが難しいんですわ、野の百合の花のようになるっていうのは、どうすればいいでしょうね?」
「それは、天真爛漫になってさ、神の心を人間の心として、その日その日を送ってゆけばいいさ」