長屋住ひ(「涙の二等分」から)

涙の二等分のテキスト化が終わった。冒頭の涙の二等分の詩はみなさん読んだことでしょう。
二番目の「長屋住ひ」を紹介します。

長屋住ひ

光線の
強い
町を歩いてゐると
ひょっと
汚じみた着物の
袖口に 眼がつく。

疲れて ひょっくり
夕方 がらんとした
淋しい家に 帰ると
火の気も
障子も 人気もない

どっさり
閾(しきい)に腰を下して
ぼんやり 外を見ると、
日――も
暮れて 行くやうだ

頸の廻らぬ
病人が
また粥を
炊いて 持ってきてくれる。

日に 日に
遊んで ゐる
男も帰ってくる。

梅干にお粥……
梅干の色が
特別に赤い!

暮れた、
寝よう!
寝よう!