2012-02-20から1日間の記事一覧

傾ける大地-4

四 挨拶もそこそこにして帰らうと思ってゐると、娘の愛子は今日はどう思ったか、文金島田に髪を結ひ直して、恭々しく表座敷に膳を運び込んで来た。余り窮屈なものだから、『少し他に用もありますから失礼させて頂きます』 と同辞したが、『娘も御相伴させま…

傾ける大地-5

五『思ったより好い処だなア』 さう云って志田義亮は、その大きな体躯を床の間の方に運んだ。彼は勝手に自分の席を決めて、床の間の中央にどっかりと腰を下した。年増芸妓の梅勇は、「く」の字なりに志田の処にちょこちょこ走りに駆寄って、古金襴で張った脇…