2012-02-23から1日間の記事一覧

傾ける大地-8

八 鉄の火鉢の前に坐って、真鍮の安っぽい煙管の雁首を激しく二三度火鉢の際で叩いた英世の父理一郎は、客の顔を見ないで呆然表の泥濘の方を見つめた。そして煙管を親指と人差指の間でキリヽと廻して頭の方を持ち直し、また刻み煙草を煙管の首に詰めた。 雨…

傾ける大地-7

七 午前九時に開会の筈の町会は、十二時になってもまだ開かれなかった。それは高砂時間と云って、一時間や二時間位遅れる位のことは普通で、誰もそれを怪しむ者は無いのであるが、町会は特に満足に時間通り開会したことは之まで一度も無かった。 それに今日…