2012-03-11から1日間の記事一覧

傾ける大地-35

三十五 女給のおけいが、しげしげ店に顔を出すやうになってから、妹の俊子と父の理一郎は、英世に対して余り好い感じを持たなくなった。妹はいつも兄と顔を合せないやうに努めてゐるやうに見えた。父の理一郎は侮蔑の言葉をさへ彼に浴びせかけた。 浜の小屋…

傾ける大地-34

三十四 延び延びになった第二審も、判決の結果有罪と決定した。そして罰念二百円の云渡しがあった。杉本英世は、直ちに大審院に上告することにしたが、弁護士連中は全く悲観的であった。神戸地方裁判所の大きな階段を下りる時、小前博士は彼を顧みて云うた。…