三十八 英世はやっとのことで終電車に間に合った。愛子は泊って行けと、外套の裾を捕へて放さなかったが、無理にも振り切って電車に飛び乗った。 英世が、彼女に残した最後の言葉ははっきりしたものであった。 『夫が監獄に這入ったから、その間に逃げ出さう…
三十七 毎日の新聞は、磯部川事件を大きな活字で書き立てるやうになった。そして志田義亮が愈々収監せられたことを報道した。それから間も無く、正親町男爵が取調を受けてゐることを三面記事は伝へた。 その記事が出てから三日目であった。俥夫が、達者な女…
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