世界連邦憲法シカゴ草案

世界憲法シカゴ草案

前文 全地球上の人民は人問が精神的卓越と物貿的福祉において向上することが全人類の共同目標であり、この目標を迫求するためには普遍的平和の実現が必要条件であり、更に平和の必須条件として正義の確立が必要とされ、平和と正義とは興亡を共にし、不正と戦争とは民族国家の相争う無政府状態と不可分な関係において生れるものであり、従って民族国家の時代は終わりをつげ、人類の時代が始まらなければならないという点で意見の一致をみたので、各国政府は個々に分離せる各自の主権を正義に基づく世界政府の中に委譲し、各国の兵器をこれに引渡し、今ここに制定するこの憲法をもって、世界連邦共和国の盟約並びに基本法を定めることに決定したのである。

義務と権利との宣言

A この憲法によって盟約せられ,保障せられている正義に基づく世界政府は、基本人権を基礎としている。
 基本人権の根底をなす諸原則は、次の基本義務の中に明示されており、永久不変のものである。
 即ち、 およそ人間たるものは、世界政府の責任と特権とにあずかる公民たると,世界政府の保護を受くる被後見者または未成年者たるとの別なく、いずこにおいても、言語および行動により、また各自の能力に応ずる生産労働により、現在に生ける人々,ならびに後に生れ来る人々の精神的および物貿的向上につくすことを、あらゆる世代の人々の共通の大義とすべきこと。
 自らが他人より為さるるを望むところを他に対して為すべきこと。
 暴力を排撃するため法律により命ぜられたる場合、または法律によって許されたる場合を除き、暴力を行使しないこと。

B かくて、社会的な義務と奉仕との関連において、また哲学と宗教とが共に自然法と呼び、これを世界共和国が普遍的に成文化し実定法として施行に努むベき不文の法に従い、およそ人問たるものは、地球上至る所で、自己および同胞人類のために、次のことを要求し維持する権利を有する。
 即ち、貧困の鉄鎖、隷属的、搾取的労働から解放され、価値と必要とに応じた報酬と保障とを与えられるるべきこと。

 世界共和国の複合的統一と目的の許す範囲内に於いて、信条、党派、職業の如何を問わず、平和的に集会し結社する自由を認められるべぎこと
 人種的、民族的、教義的または文化的ないかなる圧制的支配から個人ならびに集団を保護し、少数者ならびに反対者の自己決定を尊重すべきこと。
 その他、生命、自由及び人格の尊厳に関する人間の固有の権利として当然譲ることのできない、かつ、世界共和国の立法府および司法部が表明し指示するあらゆる自由と公民権を確保されるべきこと。

C 人間の生存に必要欠くベかちざる四大要素、土地、水、空気、エネルギーは、人類の共同の財産である。
 この共同財産のうち、個人、団体、国家または地域の所有に委ねられ、または謙渡されている部分の管理と使用とは、その所有権の確定不確定を問わず、また、それが個人主義的経済によると集団主義的経済によるとを問わず、個々およびすべての場合を通じ共同の福祉に従わなければならない。

世界政府の権能
第1条 世界政府の管轄事項は次の通りとし、それは諸機関のうちに具体化せられる。
(A)不可分にして一体たるべき世界連邦共和国を構成するすべての社会および すべての地域において本憲法が遵守されるよう監督すること・
(B)前掲宣言の精神に則り、人間の義務と権利との推進ならびに漸進的完成をはかり、後掲の諸規定〔第27条より第33条まで〕 において示されている連邦および地方関係の諸分野において特に増進せしめ、またこれの実施をはかること。
(C)平和を維持すること。 この目的達成のために社会ならびに個人にたいし拘束力を有する法律を制定し、公布すること。
(D)構成単位間の紛争に関し、諸国家間の暴力手段に訴えうることを禁止し、その紛争を裁定しまた解決すること。
(E)国家相互間、 もしくは国家連合体相互間の、境界の変更にかんして、これを監視し、それに最終の決定を与えること。
(F)新しい国家または国家連合体の成立を監視し、またこれに最終の決定を与えること。
(G)いまだ自治の資格をもたない地域の施政を行ない、その資格をうるに至った場合、適時に自治制を布告すること。
(H)世界平和と世界正義に影響をおよぼすごとき、国家内の暴力行為および法律違反に干渉を行なうこと。
(I)連邦兵力を組織し、 使用すること。
(J)世界共和国の各構成単位内における兵器および内部兵力を制限し、監督すること。
(K)第8条および第9条に示されている特別機関のほかに、地球上の資源開発ならびに人間の物質的、知識的水準の向上に資するための諸機関を設置し、これに、法律の定むるところにより、諮問、発案もしくは、仲裁の権限を付与すること。
(L)連邦税を賦課し、徴収し、また連邦支出にかんする企画と予算とをたてること、
(M)世界銀行の経営を管理し通貨発行、信用の造出および統制を行なうために適当なる世界的金融機関を設置すること。
(N)連邦の利害の見地より影響をうける商業の調整をなすこと。
(O)連邦の利害に関係する運輸、通信手段を設置調整し、また必要なとぎもしくは望ましぎ場合には、その運用にあたること、
(P)内国移民、外国移民及び人の移動に関する法律を監視し、承認すること。
(Q)連邦旅券を発給すること。
(R)連邦の使用に共するために必要とみられる私有もしくは公有の財産を、連邦政府の公用徴収権にもとづき、合理的なる補償を支払ってこれを占有すること、
(S)連邦地区として選定された地域、および連邦政府に直接信託された地域に対して立法および行政の任にあたること。

第2条 本憲法により世界政府に委託されておらず、また世界連邦共和国の各構成員に対して禁止されていない諸権能は、各国家、各民族、またはその連合体に留保せられる

連邦会議、大統領、立法機関
第3条 世界建邦共和国の主権は、世界の人民に存する。世界政府の基本的諸権能は次の諸機関に付与せられる。
(A)連邦人民会議
(B)大統領
(C)立法議会および諸特別機関
(D)大審院最高裁判所および護民官
(E)保安院

第4条 連邦会議は、すべての国家および民族に属する人民により、人ロ100万、もしくは端数50万をこえる毎に1名の割合をもって、直接に選出された代議員によって構成せられる。 ただし1945年に独立国として承認された現存の国家で、10万以上100万以下の人ロを有する国の人民は、1名の代議員を選出することができる。なお、かかる国家で人ロが10万に満たないものは、選挙手続きの上から、その国境にもっとも近接せる選挙単位と合せて計算される。 連邦会議の代議員は〔第46条第2項、および第47条に規定された場合をのぞぎ〕 国家、もしくはその他の集団代表の一員としてではなく、個人の資格において議決権を行使する。会議は三年毎に1回、5月に開かれ会期を30日とする。

第5条 連邦会議は、九つの選挙人団に分たれる。この選挙人団は、類緑関係の氏族および文化よりなる九つの社会、すなわち地域区にしたがって定められる。選挙人の権能は、この地域区に由来するものとする。かかる地域区は次の如<である。
(1)ロシアをのぞくヨーロッバ大陸とその島嶼。これに英本国および、英連邦またはフランス連合に属する海外の英語、仏語。もしくはケープーオランダ語使用社会が加わるか否かはその自主決定に委ねる。(この全地域を 〔ヨーロッパ区〕 と仮称する)
(2)アメリカ合衆国。 これに英本国または英系、仏英系、蘭英系、アイルランド系の文明と血統をもつ近緑関係の社会が加わるか否かは、その自主決定に委ねられる。〔アトランチス区〕
(3)欧亜にまたがるロシア全土。 これにロシア連邦系の東部バルト、スラブ、南部ダ二ユーブ諸民族。〔ユーラシア区〕
(4)中東および近東、北アフリカの諸国、これにパキスタンが加わるか否かは、その自主決定に委ねられる。〔アフラシア区〕
(5)サハラ以南のアフリカ これに南ア連邦が加わるか否かは、その自主決定に委ねられる。〔アフリカ区〕
(6)インド、これにパキスタンが加わるか否かは、その自主決定に委れられる。〔インド区〕
(7)中国、朝鮮、日本、これに北太平洋および中部太平洋の関係諸群島を加える。〔大アジア区〕
(8)インドシナおよびインドネシア、これにパキスタンおよび、その他の中部および南太年洋の諸島嶼が加わるか否かはその自主決定に委れられる。〔オーストラシア区〕
(9)合衆国以南の西半球。〔コロンビア区〕
 各選挙人団は、その出身地に関係なく、秘密投票により、3各以下の世界連邦共和国の大統領候補者を指名する。
 連邦会議はその全体会議において右の手続で指名された候補者名簿の中から、秘密投栗により3名の最終候補者を選びその中の1名を更に秘密投要により、3分の2以上の多数決を以て大統領として選出する。右の投票が引き続き3回行なわれ、なお決定にいたらないときは、最終候補者の中から最少得票の候補者1名を除き、残る2各の候補者について、単純多数決を以て当選者を確定する。

第6条 各選挙人団は更に、そのそれぞれの選挙区即ち地域区出身の者の間から27名ずつの世界立法議会の議員候補者を、秘密かつ比例投票により指名する。 ただし被指名者のうち3分の1以上が連邦会議の代議員であってはならない。かくして、各選挙人団より9個の候補者名簿が連邦会議に提出された後、連邦会議は全体会議を開き、各名簿のうちからそれぞれ9名ずつの立法議会議員を秘密かつ比例投票により選出する。 このばあいにおいても、9名のうち3分の1以上が連邦会議の代議員であってはならない。
 連邦会議または世界的重要性を有し、かつ三つ以上の地域区にわたって合法的に活動している団体の手によって指名された候補者のうちから、その出身地に関係なく、更に18名の議員を選出する。かかる候補者指名資格をもつ団体は会議の開催に先立ち(第1回の選挙の場合においては国際連合総会により)、その後は立法議会によりて指定される。かくして立法議会の議員の定員は99名となる。

第7条 世界連邦共和国のために、法律を発案し制定する主要権能は立法議会に付与される。立法議会の期間は3年である。立法議会は議長を選出する。その任期は3年とする。立法議会議員は、再選を妨げない。

第8条 世界政府の成立より3年以内に、立法議会と大統領は次の三つの特別機関を設置しなければならない。
(A)民族国家議院−−各民族、各国家の代表者を以て構成せられ、地方制度と地方自治組織および少数民族の保護の任にあたる。

(B)職能議院−−企業合同団体、各種組合職業団体およびその他超国家的意義をもつ団体の利益を代表し、かかる組合、団体間の非法律的紛争の調停または仲裁を行なう。
(C)科学教育文化議院
 この三機関の構成、人員、任期、および諮間的または準備的諸権能は法律をもって定める。またこれらの三機関は、第1条の(K)項に規定した目的にしたがい、他の諮間的もしくは技術的特別機関が設置せられることを妨げるものではない。

第9条 世界政府はその成立より1年以内に、21名の企画官よりなる「企画院」と称する特別機関を設置する。企画官は大統領が任命する。ただしその任命は立法議会の3分の2によって拒否された場合は無効となる。その任期は、12年である。〔ただし、第1回に任命された企画官は定員の3分の1すなわち7人ずつが4年目毎に抽せんにより解職され、交代する結果その任期は同一でない〕
 企画院は、世界政府の収入を算定し当面の経常費および長期にわたる改良便益のためた必要な企画と予算とを編成することを任務とする。この企画および予算は、第13条の規定にしたがい、大統領の勧告を付して彼により立法議会に提出される。
 世界の公私の物質的便益改善の企画、また資源および発明の生産的開発の企画はすべて、企画院もしくは企画院が設立する開発機関、またはその地域別の下級機関の審査に付せられる。企画院はかかる企画の社会的効用について意見を述ベなければならない。
 企画院の企画官は再選を許されない。またその任期中は、他のいかなる連邦機関にも就任することはできない。

第10条 大統領は、連邦の行政権並びに立法上の発案権を付与せられる。大統領の任期は6年とする大統領は世界立法議会の議員となることはできない。大統領は再選を許されない。またその任期満了後9年を経過した後でなければ護民官の地位に就くことを許されない。
 大統領は、2人引ぎつづいて同地域から出ることはできない。

第11条 大統領は内閣総理を任命する。 内閣総理は、大統領の承認をえて閣僚を任命する内閣総理は立法上の発案権を行使するにあたって立法議会において大統領の代理者となる。総理および閣僚はいかなるばあいにおいても連邦議会に出席し発言する特権を有する。ただし議決権を有せず、また議員を兼ねることは許されない。また行政上の地位に任命される際、議員であったばあい。
 位を離れだ時に再嶼議席に復することはできない。継続的たると否とを問わず、何びとも内閣総理を6年以上、閣僚の地位を12年以上占めることはできない。
 同一地域の出身者が、同時に3人閣僚の地位を占めること、まだ2人引きつづき内閣総理の地位を占めることは許されない。世界立法議会は内閣総理および閣僚に対して質問を発し、またその政策に関して決議案を採択する権能を有する。内閣総理および閣僚は、大統領の決定するばあい、もしくは、立法議会が50票もしくはそれをこえる絶対多数をもって不信任の決議をなし、それが第2回の投票によりて確認されたばあいには辞職しなければならなじい。だだし、この第2回の決議は、第1回の決議後3カ月以内に行なわれなければ効力を有しない。

第12条 立法議会の会期、ならびに、大審院および最高栽判所の開廷期は、年次休暇の期間を除いて常設である。かかる年次休暇は当該機関の定めるところにより1年に1回10週問をこえないものと1年に2回おのおの5週問をこえない休暇をのぞいてはいつも継続的に開催される。

第13条 世界政府の予算は、企画院の勧告にもとづき、大統領によって3年目ごとに立法議会に提出される。議会は多数決によって全項目を一括して、これを可決または否決することができる。大統領が期間外に追加支出を要求し、または予算変更の承認をもとめるばあいにもこの手続ぎを適用する。

第14条 大統領は連邦議会の制定するすベての法律を、その通過後30日以内にこれを拒否することができる。だだし、立法議会が3分の2の多数によって再び議決し、その議決が大統領の拒否後60日以内に、大審院過半数によって支持された場合には、議会は大統領の拒否を棄却することができる。(最初の大統領の任期中はかかる大審院の支持を要しない)

第15条 大統領が憲法にたいして反逆し権力を簒奪(さんだつ)し重罪を犯し、乱心その他精神力を継続的に損う疾病にかかっだ場合、それを理由として弾劾することができる。弾劾の決議は、立法議会の4分の3および大審院の4分の3の投票が一致し、最高栽判所が多数決により、その手続ぎの合法性を確認したときに決定的となる。大統領が連邦会議の会期中でない時に弾劾され、もしくは辞職、死亡したときは立法議会の議長が、次期連邦会議が新大統領を選出するまでの間、大統領代理となり、立法議会は新議長を選挙する。

大審院および最高裁判所
第16条 世界共和国の最高司法権は60人の判事と、職権により当然首席判事兼議長となる大統領および副議長となる立法議会議長より構成される大審院に付与される。大統領は首席判事の資格において大審院の判事を任命し、まだ欠員を生じだるときはこれを補充する。だだし立法議会が3分の2の多数決をもって反対するときはこの任命および補充を拒否される、大統領は、在職大審院判事の3分の2の多数による支持があるばあいは、この拒否を棄却する権能を有する。〔ただし初代大統領にはかかる権能はあたえられない〕 立法議会議長を除くほか、なにびとも立法議会議員と大審院判事を同時に兼任することはできない。内閣総理および閣僚も、大審院の判事を兼任することはできない、またその行政職の任期終了後、6年を経過したあとでなければ判事に選任される資格をもつことができない。

第17条 大審院の首席判事兼議長および副議長の任期は、それぞれ世界共和国大統領および立法議会議長の任期をもって期限とする。大統領は、大審院の承認をえて、補佐官を任命し、司法部における大統領の職能のうち自己の定めるものをその任期中 自己の定める一定期間代行せしめる権能を有する。
 60人の判事の任期は15年とする。 〔ただし第1回に任命せられたる判事の任期については、3年目ごとにその5分の1すなわち12人が抽選によって退職し、更迭されるため、その任期は同一ではない〕・
 大審院判事は再任を許されない。 ただし、 その任期中に内閣総理または閣僚に任命されたために辞任した判事は、 彼がその行政職を離れてから6年を経過した後に、さきに辞任によって中断された任期を満了するために再任を許される。

第18条 60人の判事は、12各ずつそれぞれ次の5部の法廷に配属される。

 第1法廷は、世界政府の主要機関および諸権能の間に生ずる憲法上の争点、 ならびに、 護民官が世界検察官および基本的人権の擁護者としての資格において提訴することを決定したあらゆる争点および事件を審理する。
 第2法廷は、世界政府とその構成単位、すなわち単独国家、国家連合体、または地域区との争点および紛争、ならびに、世界共和国の構成単位相互間の争点と紛争を審理する
 第3法廷は、世界政府と個々の公民、法人、組合またはその他の公民の団体との間に生ずる争点と紛争を審理する。
 第4法廷は、世界共和国の構成単位たる単独国家、国家連合体または地域区と個々の公民、法人、組合またはその他の公民団体との間に生じる争点および紛争で、 連邦法の解釈および実施に影響をおよぼすものを審理する。
 第5法廷は個々の公民の間において、または法人、組合、シンジケート、 その他市民の利益の集団的組織の間において生じる争点および紛争で、連邦法の解釈と実施に影響をおよぼすものを審理する。
 各地域区は、右の各法廷において、少なくとも1人以上、2人を越えない数の判事によって代表されなければならない。

第19条 最高裁判所は、次の7名、すなわち5部の法廷をそれぞれ代表する判事5人と、職権上その議長たる首席判事、および、副議長たる立法議会議長より構成される。 したがって各法廷に実際に出廷しうる判事数はそれぞれ11名となる。
 最高裁判所の判事中2人が、同一地域区から出ることは許されない。
 最高裁判所における各法廷を代表する判事は、大審院の全体会議において、秘密投票によって選出される。 その選出方法は、各判事が各法廷につき1人ずつ5人の候補者にたいして投票しそれぞれの最高得票者をもって当選者とする・ただし、その推定当選者が、最高裁判所に就任するとき、一地域区または一法廷を二重に代表することになる場合はその当選は無効となる。
 もし第1回の投票で全体の議席を満たすことができないときは、同じ規定にしたがって投票が繰返される。
 最高裁判所の判事の任期は、議長および副議長の場合は、世界共和国大統領および、立法議会議長のそれぞれの任期と同一であり、他の判事は6年である、大審院によって選出された5人の判事はその任期満了と共にそれぞれ再選されるかまたはその代表する各法廷に復帰する。ただしいかなる判事たりとも、大審院における任期満了後に最高裁判所議席につくことはできない。最高裁判所における正規の6年の任期が満了しない以前に、大審院における任期が満了した場合、または最高裁判所の選出判事が辞職、もしくは死亡した堤合、大審院は、全体会議における部分的秘密投票によって、その残存期間の欠員を補充しなければならない。ただし、地域区代表に関する前掲の規定は、この場合にも適用される。
 最高裁判所に対し6年の任期期間を2期にわたり引き続いて代表を出さなかった地域区は、次の第3期の任期に対する選挙において優先権を有する、でも、後の連邦会議において再選されない限り、その行政上の地

第20条 最高判所は、前掲の規定〔第18条〕に定められた管轄にしたがい、訴訟事件を大審院の5部の法廷に配分する。
 管轄が重複する事件、または管轄に疑義のある事件は、最高裁判所の決定する1部の法廷または2部以上の合同法廷に付託される。
 最高裁判所は、第18条に規定された5部の法廷の審理事項に関する規定を改正することができる。ただしこのばあいにおいては、立法議会の多数決と同時に大審院の3分の2の多数とによる承認がなければならない。

第21条 最高裁判所は、大審院の各部法廷が下した判決をその判決後3カ月以内に審査することをもってその職能とする。
 各部法廷の判決は最高裁判所の登録により効力を生ずる。また審査により判決が破棄された場合は、最高裁判所の決定にしたがい、原法廷または、他の1または2部以上合同の法廷に差戻され、再審に付せられる。判決の破棄は、審理が公正に行なわれなかった場合および、手続きに欠陥があった場合に行われれるが、更にまた、敗訴した当事者により最終上告が申立てられれ、最高裁判所が、自らの裁量によりこれを理由ありとして受理した場合、または護民間によって、最終上告が申立てられた場合にはこれら実質上の理由によっても判決は破棄される。 この場合、護民官の上告申立ては受理されなければならない。

第22条 大審院は、最高裁判所の承認をえて、世界共和国の構成単位内の事情により必要とされるところにしたがい、適当な数だけの下級連邦裁判所を適当な場所に設置し、また、各地域区毎に一つの連邦控訴院を設置しなければならない。大審院はかかる下級裁判所および控訴院に関する規定およびその権能を定め、また競争試験にもとづき、その公務員を任命する。

第23条 大統領または大統領補佐官、および、立法議会議長は、大統領と立法議会の間に生じる紛争の解決に関係ある事件には判事として裁判に加わることはできない。
 大統領または大統領代理または大統領補佐官、または大審院判事、または大審院判事の資格における立法議会議長は自己の任命、弾劾、貶ちゅつ(へんちゆつ)、任期、その他特に利害に関係する一切の事件において、判事として裁判に加わっることはできない。

第24条 連邦議会議員、および大審院判事は、重罪、または重大な非行について有罪が確定するまでは、免職の処分を受けない。 ただし、その有罪の判決が下級裁判所によって宣告せられ、それが控訴院によって確認された場合は、大審院に最終上告がなされている間、休職処分に付せらる。
 最高裁判所は、その訴訟手続きの合法性に関して最終の判決を宣告する。 最高裁判所はまた、立法議会議員、大審院判事、大統領および護民官の選挙と任命の法的有効性についても最終の判定を宣告する。

第25条 大統領は、世界の首席判事たる資格において、連邦法に基づいてなされた宣告に対して赦免を行なうの権能を有する。

護民官および世界法
第26条 連邦会議は、立法議会議員の選挙を終了した後、世界の少数者の代弁者たる護民官を秘密投票によって選挙する。
 護民官の地位は、被選挙資格を有する候補者のうち第二位の高点を得た候補者に与えられる。 同期の連邦会議において、いずれかの選挙人団によりすでに大統領候補に指名された者、またはその連邦会議に先立つ9年間の間に、一度でも大統領、大統領代理、大統領補佐官、または大審院判事であった者、または現に大統領の地位にある者と出身地域区を同じくしている者は被選挙資格をもたない。
 護民官は立法議会において議席をもつことはできない。護民官の任期は3年とする。護民官は1名の副護民官を住命する権能を有する。ただし副護民官に関する適格条件は護民官と同一であり、その任期は護民官の任期を越えることはできない。
 護民官の再選は許されない。また護民官の地位についた者は、その任期満了後9年を経過した上でなければ、大統領、大統領補佐官大審院判事の地位につく資格をもたない。 護民官、またはその任命した副護民官は、何時にでも大審院に出廷しで発言しまた法律によっで定められた規則にしたがい、最高裁判所に出廷して発言する特権を有する。ただしいずれの場合においでも、投票権をもたず、また採決の行われれる場令には退席しなければならない。

第27条 護民官は、世界政府またはその構成単位による侵害と過怠から、個人および集団の自然権および公民権を擁護し世界共和国における世界弁務官としで、この憲法の条文と精神との遵守を促進、要求し、かくしで本憲法の前文ならびに義務と権利の宣言の精神に則り長年の努力によっで、人類の進歩のために課せれれた目標の達成を促進することをもっで職能とする。

第28条 世界共和国またはそのいずれの構成単位においでも、次の条頂を規定する法律は制定を許されず、また制定しでも無効である。
(1)人種、民族、性、身分、信条または教義にたいしで差別待遇を加え、またはこれを容認すること。
(2)既得権益についでの優先的な協定または提携により、地球上の原料およびエネルギー源をある国家または民族が平等の条件で利用することをさまたげること。
(3)公然または隠然たる形の奴隷、あるいは、強制労働を制度化し、または容認すること。ただし、国家または連邦支配下の諸制度内において、正当なる贖罪(しよくざい)として課せられ、社会奉仕および受刑者の更生を目的とするものはこの限りではない。
(4)国家の命令によると否とを問わず、専断的な逮補または捜査、不公正な裁判、過重の刑罰、または法の事後遡及(そきゅう)的適用を許すこと。
(5)世界政府の公民が法律によっで付与せられた公民としでの責任および特権を行使することを、いかなる形にせよ制限すること。
(6)交通および通信の自由、言論、出版およびあらゆる方法による表現の自由、また平和的集会の自由ならびに旅行の自由を制限すること。
 ただし、前記の第5項および第6項は、世界共和国の存立と統一とを危殆ならしめる緊急事態の発生した場合には、全般的または地方的に、事情に応じで留保されうる。かかる世界全般的もしくは地方的の緊急事態の宣言は、保安院の発議をまち立法議会および大審院のそれぞれの3分の2の多数決により、6力月を越えない期間を限っで布告される。この宣言はその期限満了後も、前期と同一の手続きにより、6カ月以内の期間を限って引ぎ続き更新することを許される。 ただし、いかなる場合においても、緊急状態の終了が布告される日を越えて延長することは許されない。 終了の布告は、保安院の発議を待ち、立法議会および大審院の単純多数による議決によって行われる。 保安院の発議が不当に延引していると認められたときは、立法議会と大審院それぞれの3分の2の多数決により終了の布告をなすことができる。

第29条 連邦法の下においては、死刑は科せられることはない。

第30条 養老年金、失業救済、疾病および傷害保険、休暇に関する適正なる条件、母子保護の諸制度は、地方法の定める時と場所のそれぞぞれの状況に応じてもうけれれなければならない。
 適切なる社会保障および救済の制度を設ける力を欠く社会および国家は、連邦国庫より授助される。 ただしその場合の援助および特恵的貸付金は連邦の監督の下に行なれれる。

第31条 6歳から12歳までの児童は、すベて公費で教育をうける権利を有する、その6年間の初等教育は義務教育で、何人も年齢、性、人種、階級または信条により差別されることなく、それ以上の教育を受けられる。
 この義務を果たす力を欠く社会と国家は連邦国庫により援助される。 この場合には第30条のただし書が適用される。

第32条 すべての財産または事業にして、その運用と用途が、連邦公共事業たる規模と性格とを獲得したもの、またそれらに関する、制約的商業慣習が超国家的独占事業の性格と支配力とを有するに至ったものは、すべて法律の定める適正な対価を支払ったうえで、連邦政府の財産とせられる。

第33条 すべての個人、集団および社会は、法律の不当な適用に対して、または法律そのものに対して、出訴の権利を有する。 その出訴は、地方の、または連邦の下級裁判所より上級に至り、大審院にまでおよぶことができる。 また護民官が決定するななら その助言と支持をうることができる。もしも法律または規則が本憲法の前掲の各条項において誓約された保障に明白に抵触し、または本憲法の前文および、義務と権利の宣言に述べられた世界共和国の基本的原則および目的と絶対に相容れぬ場合には、大審院最高裁判所に対して、かかる法律または、規則の無効を宣言すべきことを勧告する権限を有し、最高裁判所はそれを無効と宣言する権能を有する。

第34条 護民官は、第15条において大統領に関して定められたと同一の理由および手続きによるのでなければ弾劾されることはない。

 護民官が弾劾され、または辞職、死亡により欠員となった場合には、その任期の残余期間、その前の連邦会議において次点であった護民官の候補者がその補欠にあてられる。この場台、第26条第1項の適格条件に関する規定が適用される。

保 安 院
第35条 世界連邦共和国の兵力の管理と使用とは、すべて、平和防衛官の資格における大統領を議長とする保安院にのみ委託される。議長以外の保安官には立法議会と大審院との合同会議において選出される6名の立法議会議員があてられ、その任期を3年とする、〔ただし、大審院は第1回の選挙に参加しない〕。保安院には元大統領であった者が、別に1名参加する。その参加の順序は任期毎に、また彼が辞職または死亡した場合には、その残存の任期について大統領職就任の順にしたがって決定される。彼は保安院の審議において発言する特権を有するが、その決定に関して投票権をもたない。

 連邦共和国の兵力またはその構成単位の国内兵力において職業的地位または現役の地位におる将校は、保安官に選出されることをえない。

第36条 選挙による6名の保安官の選出は、各選挙人が6名あるいはそれ以下の氏名を連記する秘密比例投票によって行なれれる。ただし、現大統領を含み元大統領をのぞく7名の保安官のうち、同一の地域区の出身者が3名に上ることは許されない。また推定当選者にして、この規準に反して選出された者は不適格と宣せられ、その規準に合致する次点者がこれにかわる。
 前記の7名の保安官の中にに、代表者を、3年の任期を2期ひきつづき出さなかった地域区は次の選挙において、優先権を有する。
 ただし、世界共和国に対する治安妨害が現実に存在している国家または地域区、あるいは保安院の多数によりその発生の危険ありと認められた国家または地域区出身の保安官は、その数のいかんにかかわらず解任せられ交代せしめられる。
 この場合、当該保安官以外の保安官が全員一致をもってその必要なしと決定したときはこの限りではない。保安官は、前掲の大統領並びに護民官に関して定められた理由および手続き 〔本憲法第15条および第34条〕。保安官に関して定められた理由および手続き 〔第38条〕 による場合のほか、弾劾せられることなく、またいかわる点においても休職または免職の処分に付せられることはない。
 保安官が辞職または死亡し、あるいはいかなる形にせよ休職または免職の処分に付せられたときは、その残された任期に対する補充者を、部分選挙によって選ばなければならない。
 この選挙の場合は、各選挙人が欠員の数に応じて1名またはそれ以上の氏名を記載して投票を行なう。
 なお本条の第1項および第2項の定むるところの規則とただし書はこの場合にも適用される。

第37条 内閣総理は、大統領の代理としての資格において保安院の会議に出席する権利をもち、大統領の決定にしたがい代埋投票を行なう。

第38条 保安院が管埋する平和維持と防衛に関する予算案は、保安院により、その任期の初めにおいて全任期にわたり発議され、本憲法第13条の規定にしたがい、大統領によって、立法議会に付議される。ただし、前掲の規定(第28条末項〕 に定められた方式と制限内において緊急事態が宣言された場合には、保安院は緊急事態に必要な追加予算を要求し、運用する権能を有する。この追加予算は、緊急事態が終結した際、立法議会の監査と承認をうけなければならない。もしも承認が拒否された場合には、それに責任ある保安官は、権力濫用の故をもって、前掲〔第15条および第34条〕の大統領および護民官に関して規定されたと同一の手続きにしたがい、弾劫され、訴追されることを免れえない。

第39条 第28条の規定する緊急事態が宣言されたときは、保安院は絶対多数決により、かつ同時に立法議会および大審院のそれぞれ3分の2の多数決による承認をえて、本憲法によって委任された以上の非常権限を、大統領に付与することを発議することができる。かかる非常権限の認められる期間は1期間6カ月を越えることをえず。第28条の規定にしたがい、緊急事態の終結が布告された場合は、その期間の満了を待つことなく、直ちに非常権限は撤回されなければならない。

第40条 保安院保安院の発する一般約および行政的命令に関して、立法議会からの質問に答えなければならない。ただし第28条および第39条において別に規定されている場合を除き討議後はそれらに関して採決は行なれれない。 また、技術的および戦略的事項に関する保安院の決定は最終的であり、保安院が決定すればその公表をさしひかえられる。

第41条 保安院は、保安院の任命する参謀本部および技術本部の補佐をうけ各社会、国家、または国家連合体の内部兵力に対して、限度として課せられる技術上および数量上の標準を決定する。この決定による標準をこえる軍隊および兵器の製造は世界政府の手に保留される。

連邦首都、連邦語、および連邦諸標準
第42条 世界共和国は、その設立より1年以内に、その公用微収権にもとづき連邦首都の場所を選定し、適当な連邦直轄区を設けなければならない。

第43条 連邦政府は、その設立より3年以内に連邦法の公示および解釈の標準となるべき一つの公用語を指定しなければならない。また1年以内に交通、租税、および財政に関する同様の目的のために連邦度量衡、および連邦暦とともに、連邦通貸単位を制定する。

憲法改正の権能
第44条 本憲法の改正は、立法議会および大審院が一致してそれぞれ3分の2以上の多数決によって勧告し、その勧告直後に開かれる連邦会議の憲法会議において、3分の2の多数によっで可決されたときに効力を生ずる。憲法会議は、第3回目の連邦会議における通常選挙会議の終了後直ちに開催され、その後は9年目に開かれる。その会期は、審議の必要に応じかつ多数決により、30日またはそれ以下の日数を定める。〔ただし、 第5条に列挙した選挙単位の変更、または立法議会その他の連邦諸機関における議席の割当ての変更に関する改正の勧告は、かかる憲法会議の第1回会合に対しては行なわれえない〕

批准および予備期間
第45条 第1回連邦会議を連邦創立会議とする。この創立会議における代表者の比率は1948年に確認され、または権威あるものとして概算された世界人口数を基礎とする。創立会議招集の方法およびその開会と投票との手続きに関する諸規則は、国際連合総会によって決定される。

第46条 創立会議は、30間を会期とするその選挙会議に先立って本憲法の審議と承認のために30日またはそれ以下の日数を会期とする予備会議を開催する。この予備会議は、その審議の必要に応じかつ多数決により、さらに30日またはそれ以下の日数を延長することができる。
 創立会議に出席する代表者は、個人として投票し代表団単位には行なわない。ただし、第5条に列記したように九つの選挙人団即ち九つの地域区のどれに加わるかの選択権を自らもつ国家または地帯についてその配属を決定する場合は別である。その場合は当該国家または当該地帯よりの代表団内部における多数派の投票が少数派を拘束。第5条はそれにしたがって調整される。

第47条 創立会議が本憲法を審議し、個人投票による多数決によってこれを可決した後、全地球人口の3分の2を代表するに足る国家および民族の代表団内における集団的多数をもって批推したときに世界連邦共和国の設立の要件はみたされたものとみとめる。

世界憲法起草委員会

  委員長 ロバート・M・ハッチンス(シカゴ大学総長)
  書 記 G・A・ボパレゲーゼ(シカゴ大学人文学科教授)
      モーチマー・J・アドラーシカゴ大学法哲学料教援)
      ストリングフ工ロー・バー(セント・ジョソス大学前総長)
      アルバート・ジ工ラール(スタンフォード大学文科学料名誉教授)
      ハロード・A・イン二ス(トロント大学経済学部長兼教授)
      エーリッヒ・力ーラ(コーネル大学教授)
      ウイルバー・G・カッツ(シカゴ大学法学部長)
      チャールス・H・マッキルウェイン(ハーバード大学政治学科名誉教授)
      ロバート・レッドフィールド(シカゴ大学人類学部長兼教授)
      レックスフォード・G・タッグウェル(シカゴ大学政治学科教授)
      〔以下、 付記された注解を略す・1968年改訳〕

      ロバート・ハッチンス 
原爆の威力を知った瞬間、私は直観的に世界国家をつくらればならぬことを悟った。世界組織をつくり、それに原子力を独占させる以外に戦争を廃絶する望みは全くないからである。