"I know Dr. Kagawa 高橋源次

 賀川豊彦学会が誕生したのは昭和60年のこと。学会論叢の創刊号が11月に世に出た。その巻頭言を書いたのは当時の高橋源次氏。明治学院大学名誉教授である。1934年にロンドン大学に留学したときのエピソードを書いている。

 "I know Dr. Kagawa"

 そう言っただけで、かれら英国の学生達は眼の色を変えて、たて続けに賀川先生のことを私に質問してくるのであった。

 それは、1934年、ロンドン大学での私の在外研究が始まって間もなくのことであった。ロンドンの書店には何処へ行っても、先生の『A Grain of Wheat』と『Kagawa』(W. Axeling)が出ていた。彼らの間で、 Dr. Kagawa、Dr. Schweitzer、Gandhiの3人が、世界の三聖と謳われている頃であった。

 私が賀川先生のことを知っていると胸を張ってから半世紀、そして先生が天に召されてから四半世紀になる。親しくして戴いた先生との会話のあれこれ、先生の著述と事業についての若干の知識ももってしても、「賀川先生を知っている」などとは、今なお、おこがましい。しかも、今日ほど、賀川先生の研究に迫られた時代はない。生涯をかけられた先生の「世界国家」に対するVisionを各自のものとし、日本の救い、人類の平和を、臨終まで持ち続けた先生の祈りを、わが祈りとしたいものである。

 「賀川講座」が近々米国Wesley神学校に開設されるという。わが国では、賀川資料館、賀川記念館等の活発な活動がある。ここに、賀川豊彦学会論叢の創刊を見るにいたったことは感謝のきわみである。賀川精神の発揚のために、本誌が成し得る聊かの貢献を期待しつつ、創刊の辞としたい。