80年前に協同組合を世界に問うた日本人(3) 伴 武澄
ロッチデールの5原則
労働者の生活改善という発想は、ロッチデールの人々に受け継がれ、生活協同組合(コープショップ)という概念として後に確立する。当地の織物労働者たちによって1930年から試行錯誤が続けられ、1844年、13人のメンバーによって「ロッチデール・エクィタブル・パイオニア・ソサエティー」が発足した。
彼らは毎週、2ペンスずつを1年間にわたって貯蓄して28ポンドの資金を集めた。10ポンドでオートミール、小麦粉、バター、砂糖、ろうそくを仕入れ、商いを始めた。初日の商いが終わってみると彼らは22ポンドの利益を手にしていた。
彼らの当初の目的は、普通の人々がお金の価値に見合った商品を購入できることにあった。しかし、団結すること、協力することによって思いのほかの収益を手にすることも知った。彼らは新しい組織の運営方針を決め、収益の還元方法について考えざるを得なかった。
ロッチデールの仲間が打ち出したのは簡潔な五つの原則だった。後にロッチデール五原則といられるようになった。(1)入・脱会の自由(2)一人一票という民主的組織運営(3)出資金への利子制限(4)剰余金の分配(5)教育の重視−である。
まず株式会社の場合は保有する株数に応じて発言権があるが、出資金が何口であっても発言権は一人一票とした。これは画期的であるし、今でも引き継がれている大切な原則である。剰余金については、購入額に応じて還元するということである。株式会社の場合は保有株数に応じて配当されるが、たくさん利用した人ほど「配当」が多い。組織の保有者への還元ではなく、利用者への還元という意味において、現在の日本でも家電販売店の「ポイント制」として復活している。
「出資金への利子制限」の意味は、利益のすべてを出資者に還元するのではなく、教育を中心に「地域」に還元するという考え方である。オーエンに倣ったものだと思われるが、税収が為政者のものだという時代において、地域の生活のレベルアップの資金を自ら作り出そうという意味合いが込まれている。現在でいうところの「公共哲学」と合致するのかもしれない。