賀川と信用組合理論と実践(4)(賀川豊彦学会論叢創刊号 1985年)日大教授森静朗

 中ノ郷信用組合後経者としての賀川

 中ノ郷信用組合生みの親で、ある賀川は、昭和21年(1946)1月29日に組合長に就任する。昭和27年(1952)11月25日の「協同金融」(注15)のなかで協同互助の金融と題して次の巻頭言をのせている
「人のいやがる戦争で産を興したり、経済危機の虚に乗じて高利をむさぼったりすることは誰が考えても悪いことに違いないが、溺れるものは藁でも把むのたとえ通り、其の渦中に落ちこむ例は枚挙に違がない。
 市井に喧伝さるる金詰りの声は既に久しく当局の諸施策にも拘らず、益々窮迫を告げる。此の窮迫の中から協同金融の要望が湧く。銘々一人一人の力は微弱でも団結すれば強くなる。この組合は昭和3年6月14日創立以来、終始一貫。隣保協同の建前を崩さず、戦災の試錬にも之を実証した。
 罹災十日後には貯金の全面的払戻しを初め、其の後の再建整備に於ても、封鎖貯金、出資金の切捨を一切行はなかった。これが協同主義の強味でなくて何であろうか。信用の基礎に人をおくか、財貨におくか、勿論人格高潔の士が人に信ぜられ、然らざるものが不信を招くのは当然であるが、前者にも世間から相手にされる不遇な者がないとは云えぬ、殊に金融面には其の例が乏しくない。困ったことである。併し銘々一人一人の力ではどうすることも出来ない。
 この組合の貸出方針が余り竪過ぎると云う非難を偶々耳にするが現下唯一の資金源である貯金の安全を護るためには放漫な貸出は出来ない。だが堅いばかりが能ではない。お互いの資金を互いが利用するのであるから、協同主義の建前を崩さぬ限り、煩鎖な手続は出来るだけ省略して、臨機即応の融資を行う組合金融の妙味を生かさなければならない。釈迦も「縁なき衆生は度しがたい』と歎いた。組合に加入し、之を利用するにしても、その狙いが外れて求めるものが得られない。たとえ十円札一枚ずつでも、余財を蓄える覚悟があったら不如意の特に相応の金が出る。斯かる事前の用意は隣保協同の前提になるが、其の逆では機縁となり得ない。諺にも『蒔かぬ種は生えぬ』と言う。組合はお互いがお互いのために組織した金融機関で、あるから搾取のない代りに常時其の支柱となり協力となって之を育成して行かなければならない。」(「協同金融」No.25 P.2)
さらに昭和27年(1952)12月25日の協同金融のなかで「労働街の金融組織」と題して、
「東京では毎日約600通の不渡手形が昭和27年の春には出ていたが、その年末には1日800通を越えるとのことであった。中小工業者の金詰りは近頃は大工業まで波及し、朝鮮動乱で一時芽をふいていた小工場もまた近ごろはだめになった。日本の工業の特質上大きな工場から発注してもらう下請工場が家内工業的な性質を持っていることは、東京、大阪、名古屋その他の工業都市の社会経済組織を見ればよくわかる、……中小工業者の金融が戦後相互銀行という世界にも珍しい金融組織となって現れた。相互銀行は、日掛貯金を中心とする。相当に高利なものであるが、終戦前日本に発達していた特殊金融に無尽頼母子講がある。昭和の初め日本の国家予算が年14億円のころ無尽頼母子講の運用資金は一年約40億円と見積られていた。兵庫県と、長野県が最も頼母子講の進歩している地方である。……私は、神戸の貧民窟に十年数住んでいて、この無尽頼母子講の共済組合的使命を発見して驚いたことがあるが、庶民階級のあいだに普及していることは想像の外である。
 無尽頼母子講を組織し得ない無産者は質屋通いをする。今度も厚生省は公設質屋の金として2億円をあてにしているということであるが、最近全国に質屋に数がふえたのは驚くべきことである。東京では、昭和2年ごろ、約1、600軒の質屋があって、6億円の金融をなし、月1割の利息を取っていた。それで、これらの金融業者が1年間うける利息は11割以上に達している。公設質屋の利息は月3分、年3割6分になっている。しかし、公設質屋の一口の貸付けの金額が少ないため、借りたいけれども借れないという現状にある
 『土方を殺に刀はいらぬ、雨の三日も降ればよい』という歌が、関西の細民街で、歌われている。その通り関西では、五月雨が降るころ、関東では10月の長雨が続くころ、質屋は大繁昌する。……私は同志とともに、日本でただ一つの存在である。「質庫信用組合」を東京の労働街で経営している。信用組合で金を集め、それを質に置きに来る人に貸してあげるのである。そうすれば、公設質屋で困っている金融を民間金融によって容易にすることが出来る。昭和26年4月1日から昭和27年3月31日までの4980人の質庫利用者の研究をして見ると、1000円以下を借りに来た者が49.7%、その平均金額410円、利用者実数2477人、3000円以下32.9%実人員1692人、平均金額1800円、5000円以下3000円まで9.2%、15000円以下10000円まで1.5%というような統計を示している。私が犬正3年に調査した時日本全国の質草が一件平均が約1円40銭であったが、今のインフレ時代においても、下層階級の金融が、昔とあまり変らない。」(「協同金融」No.26 P.3)