英知大学長 岸英司氏「宇宙の神、人の神」

 NHKラジオ深夜便「こころの時代」から賀川豊彦関連部分のみ抜粋
 英知大学長 岸英司氏「宇宙の神、人の神」
 今、発想、の転換が必要だ。「宇宙の中の私たち」という意識が大事ではないか。宇宙は人間を生み出したのだから、心というものがある。宇宙意識というものがある。それは神であり、現代は神という言葉をつかわないので、トランスパーソナル(個人を超えた)なものというが、それが宇宙意識である。宇宙的な思想、実践がいま、大事だと思う。こういうことを主張したのはフランスのテ一アール、日本では賀川豊彦である。
 賀川豊彦という人は社会運動家の著名な方でプロテスタントの牧師だった方で、戦争後は東久邇宮内閣の参与にもなった。日本社会党の創立に参両した。協同組合運動もした。神戸にある灘生協は賀川さんが残した事業の一つで一番発展している。
 賀川さんが理想とした国家はノルウェーとかスウェーデンとか北欧の国々。協同組合を基調とする経済活動。社会運動とか労働運動とかでよく知られているけれども、私が申しているのは、宇宙思想家としての賀川さん。賀川さんの初期の作品から晩年にいたるまでどれだけ宇宙という言葉を使用されたであろうか。宇宙という言葉が何千回も使用されている。神という言葉を使うところに「宇宙」、「こころ」という言葉を使った。進化論を信じていたからキリスト教創造論をどう調和したらいいのか、若いときからの課題だった。結局、宇宙はどんどん進化していくので、進化する宇宙の中で、それにいけないところに悪の問題がある。宇宙悪がある。社会悪と言わずに宇宙悪といった。しかし、その宇宙悪を抱擁して宇宙を美しいものにしてくれる力が働いている。これを宇宙意思の働きというが、こういう力が働いているのだから安心して生きていきなさいといった。宗教観としては、イエスという方は白血球のように病原体を守る、傷をしたところに包帯をする、修繕してくれる、補修してくれる。だからどんな人生を送っている入もやり直しができる。宗教というのは人生の工夫、生活の工夫なので、工夫して生きていきなさいと言った。
 面白い言葉をたくさん使った。教育というのは魂の彫刻、魂に刻み込むこととか、最後は宇宙の目的に到達できるんですよと非常に楽観的な考えだった。テ一アールも楽観的だった。二人とも宇宙思想家で、詩人で、神秘家である。賀川さんには神秘体験があった。物質の世界の中にも私は神を見ていると述べている。この二人の思想家はここから意義があると思う。
 ただ賀川さんのような生き方は、聖書に閉じこもるとか教義的なことに閉じこもる人たちには不満であった。ちょっと外れているのではいかと。しかし、そういうことを知ったうえで、聖書ばかり読みふけっていたのでは駄目なんだと。目の前にいる最も小さい人の中に神はいるので、その人たちとかかわらないならば神はどこかに行ってしまうのではないか、と述べている。宗教が経済的のものと全く無関係ならば、人の生活のことを考えないならば、それはもう駄目だ。やはり社会運動と宗教運動とは一つであるという。人間は罪深いから、ただ神様から赦してもらうだけではなく、神様の中に、溶鉱炉の中に、るつぼの中に投げ入れて溶けてしまうのだ。雲の柱という個人雑誌を創刊された巻頭言のなかに、神に溶けるこころ、私は神に溶けるといっている。これは神秘家でないといえない。詩人は神学者の語り得ない消息を語ると義光さんもいっている口私は宇宙の一大演出、芝居を見ていると宇宙の目的の中で述べている。テ一アールも私は宇宙の劇を見ている、見るということが大事なのだと。二人ともビジョンの人だった。これからの私達の生き方を宇宙的な視野のもとに、毎日の小さい生活を工夫して生きていくことだと思う。
 賀川さんの思想を表す三つのキーワードは修繕。人生の修復ができる。連帯。人間だけではなく植物とも動物とも連帯する宇宙的連帯が必要。そして宇宙の目的。