賀川豊彦の協同組合思想と日韓現代社会ーBrotherhood Economics の可能性

賀川豊彦の協同組合思想と日韓現代社会ーBrotherhood Economics の可能性」 濱田陽・李珦淑


一 賀川協同組合思想の現代的意義

 この度、賀川豊彦のBrotherhood Economicsが日本に先駆けて韓国で翻訳・出版された。協同組合システムの理念を根源的に問い、平和的発展可能な社会を構築しようとする賀川の思想が、金融危機の真只中にある現代に紹介されることは、きわめて意義深い。しかも、それが、隣国である韓国でなされたことは、十分に注目してよい。(以下略)

二 韓国語版にみる賀川豊彦への関心

三 Brotherhood Economics の可能性

 (以上略)

 つまるところ、筆者が望むのは、Brotherhood Economicsを完成された理論と見るのではなく、一つのたたき台として吟味し、批判し、その可能性を引き出すことである。これは、そのような講演であり、著作である。

 今日なお、賀川の協同組合の思想が、十分に実験され、乗り越えられているとはいいがたい。現代の日本社会において、一般市民が、協同組合の理念とシステムに深い倫理的価値づけを想起することはほとんどない。各種協同組合間の本格的な相互連携も今後の課題とされている。生協に限ってみても、二〇〇七年に法改正がなされはしたが、都道府県を越えた広域事業連携や組合員外の利用においてなお課題を残しているといわれる。

 日本社会は、賀川の没後、さらなる経済成長と情報革命を経験した。今日では企業の社会的責任が問われ、市場の機能を貧しい人々にも役立てる仕組みをつくり出そうとする創造的資本主義(ビル・ゲイツ)のような主張も登場している。このような時代に協同組合と社会の関係を見つめ直すためには、個別の組織論にとどまらない、広い視野に立った抜本的研究が必要である。 

 賀川には、広い視野があった。筆者は、自由や平等など二〜三の価値に限定せず、生命からはじめ、労力、交換の自由、成長、良き選択、法秩序、良き目的の七種の価値を分ちがたく結びついたものととらえた賀川の発想、これらの価値にそれぞれ互助の社会システムを対応させた構想力、しかも七種の価値の源泉を宗教的倫理の知恵から説き及ぼうとした胆力を興味深く思う。このような賀川の試みは、協同組合のみならず、一般企業や各種NGOに関わる人々にとっても大いに参考になるのではないだろうか。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     

 人間は、純粋な理念やシステムだけでは満足することができない。そこに文化や宗教による意味づけが求められる余地が生じる。文化や宗教の根をもつときに、理念やシステムは、その時々の現実社会が求める要請に応答しやすい、血の通ったものとなる。

 なぜ、協同組合なのか。それは協同組合が生命にはじまる尊い価値を社会のなかでより良く保障できるからだ。どこから、その価値が来るのか。人間が、史上、受け継いできた尊い知恵から来る。このように賀川は考えていたのだろう。