「友愛」 鳩山氏の理念 ルーツは?

 6月3日付毎日新聞夕刊に続いて、19日付東京新聞こちら特報部」でも「友愛」を特集した。総選挙で民主党が勝利し、鳩山由紀夫氏が首相になると「友愛」が現実のものになる。友愛はもちろんソフトクリームのように軟弱なものではない。自らを律する厳しい思想である。「利権政治」の方がよっぽどやさしい。鳩山氏はその厳しさに耐えられるだろうか。(伴武澄)

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「友愛」 鳩山氏の理念 ルーツは?2009年6月19日東京新聞こちら特報部

 鳩山由紀夫氏が民主党代表に返り咲いて1カ月余。「友愛社会の日本を」−。先の党代表選や麻生太郎首相との党首討論などで再三、口にする政策理念だ。しかし、わかるようで、正直ピンとこない。政権交代鳩山首相誕生もあり得る次期総選挙を控え、無関心でもいられない。「友愛」は現実の政治にどう反映されるのか。理念のルーツから探った。(岩岡千景)
 「縦の利権社会ではなくて、横のきずなの社会をつくりたい」。今月17日の党首討論第2弾。西川善文日本郵政社長の続投や財源論議で攻防を繰り広げた後、鳩山氏はこう締めくくった。
 鳩山氏は先月16日、新代表に就任。27日、初の党首討論で「愛やきずな、幸せのある社会、他人の幸せを自分の幸せと感じられる社会をつくりたい」と、「友愛社会の建設」と説いた。
 麻生首相らは「どう具体化するかわからない」などと揶揄し、かつて中曽根康弘元首相は「友愛なんてソフトクリームのように甘くて、すぐに溶けてしまうようなもの」と評した。
 「友愛」の由来は? 鳩山氏が「祖父譲り」と言うように、提唱者は鳩山一郎元首相(1883−1959)。戦後の1946年、連合国総司令部(GHQ)に公職追放され、長野県の軽井沢で「晴耕雨読」の最中、オーストリアの政治家リヒャルト・クーデンホーフ・カレルギーの「自由と人生」を読んで感動。52年の政界復帰後、訳書を出し、友愛に満ちた社会を実現する「友愛革命」を唱えた。

 自分と他者を尊重

 その友愛思想とは何か。カレルギーはヨーロッパの平和と統合を目指す汎ヨーロッパ主義を唱え、「EUの父」と呼ばれた。「フランス革命は自由、平等、友愛の実現を目指したが、自由だけが実現した」と主張。
 だが、自由はともすれば利己主義を招き、経済的な不平等、つまり貧困の差を広げる。そこで相いれない自由と平等を調和させ人々が助け合うために、自分と同時に他者を大切にする必要を説いたという。
 こうした友愛思想を生かそうと、ほかに試みたのは労働運動だ。1912年(大正元年)、東京都港区にある友愛会館を拠点に、元新聞記者の鈴木文治らが、「友愛会」を結成。「日本労働総同盟」の前進で、現在の日本労働組合総連合会(連合)につながる組織だ。
 会館内の「友愛労働歴史館」解説員の間宮悠紀雄氏は「運動の基になったのは自分だけでなく他人も大切にしようという考え」。つまり友愛思想だったのだ。
 当時、ここはキリスト教の「ユニテリアン教会」で、鈴木文治も「ユニテリアン」と呼ばれる教会関係者だった。「キリスト教人道主義的な考えの人々が、労働運動を始めた」と間宮さん。
 ユニテリアンについて慶応大学名誉教授の土屋博政氏(英米宗教思想史)は「私の提議では」と前置きし、説明する。「諸宗教や諸思想を究極的に一つとみて自分と他者がかけがえのない存在と考えて尊重し、自由と寛容を大切にする人々」
 聖書マタイ伝の有名な「汝の隣人を愛せよ」の実践。友愛の思想は、多くのユニテリアンの原理だったという。