賀川、オバマ、鳩山にみるコペ転

 11月03日、京都三条ラジオカフェのThinktank Journalで放送されたインタビューです。
http://fm797thinktank.seesaa.net/article/130321312.html

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中野 今日のお客さまは同志社大学で講演のため、京都に来ている国際平和協会の伴さんです。伴さんは賀川豊彦に関する講演をこれからされるのですが、まず賀川という人物を紹介してもらえますか。
 説明が難しい人物です。70年、80年前、賀川、ガンジー、シュバイツアーが世界の三大聖人といわれました。スラムの中から貧しい人々の救済活動を始め、最後は世界連邦の実現を目指して活動しました。気宇壮大というか大きな夢を抱いて一生を送った人物です。
中野 賀川豊彦は戦前の方ですよね。鳩山由紀夫さんが首相になって友愛を説いています。昔のことが新しく感じられる時勢になって、賀川が現在にマッチしてきたような気がします。
 まさしく賀川のキーワードが友愛だった。ブラザーフッドというキリスト教の精神であり、自由、平等、博愛(フラタニティー)というフランス革命の旗印でもありました。助け合い、共に生きることを掲げて改革事業をやったのです。賀川がスラムに入って100年になる今年、多くの地方でシンポジウムや映画上映会、出版活動などが繰り広げられています。奇しくもそんな時期に友愛を掲げる首相が誕生したのです。
中野 さきごろ、賀川に関して、ノーベル平和賞のみならず文学賞にもノミネートされていたことが分かりましたね。世界ではそれほど知られるのに日本では名前さえ知らない。
 残念なことですが、文学賞はわれわれもびっくりしました。賀川は小説を100冊ぐらい書いています。多くの小説は貧しい人々と生きるという友愛の精神が入っていて、貧しい人たちの共感を得て『死線を越えて』は100万部を超えました。彼の本は宣教師たちの手によって次々と翻訳され、多いのは25カ国で販売され、海外で幅広く読まれていました。賀川は伝道師であって、文学者ではないとよく言われましたが、西洋人の目から見た賀川はどうもそうではないということなんですね。嬉しいことです。賀川に関して日本と海外では見方がいつも違うのですが、われわれ、もう一度賀川を読み直さなければと反省しています。
中野 伴さんは先週も徳島に行かれるなど献身100年事業の広報委員長もされています。チャーチル文学賞をもらっていますね。第二次大戦の平和への立役者としてのチャーチル文学賞をとっている。平和と文学と両方にノミネートされる人物というのは非常にグローバルというか、国益を超えていますね。今日、まさに求められるのは地球益を語るような人物だと思うのですが。友愛というのは地球益ですよね。
 まさにロマンということだと思います。みんなが不可能だと思っていることを「いやできるんだ」と人々を鼓舞する人物こそがロマンチストなのです。賀川は詩人だとよくいわれました。彼の書いたエッセイだとか日記に心を打つ表現が少なくないのです。チャーチルもロマンを持っていたのでしょう。タゴールなどもインドがイギリスの圧制下にあったときにヒンズーの魂を呼び起こすことをしたのです。平和と文学の共通項にロマンがあるのだと思いますね。
中野 オバマ大統領がノーベル平和賞を受賞したのですが、実績もないのにという声もありますが、現在進行形の人がもらった方が世の中のためになるような気がします。ロマンが実現できるという意味においては最適だと思います。
 多くの人がまだ何もしていないのにと言っていますが、僕は黒人としてアメリカの大統領になったことだけでも世界に発信したメッセージは大きいと思っています。去年民主党の大統領候補になったとき、「生きて大統領になれるだろうか」などと心配したものです。
オバマ民主党の共通項はこれまで誰もができないと思っていたことを実現しようとしていることです。これまでのしがらみを事もなげにそうでなくしてしまうところに国民の共感を得ているところがあるのではないでしょうか。でもこれを「言う」ことはかなり勇気がいることなのです。これをコペルニクス的転換というのです。地球が回っているなどといえば、当時は命が危ない。コペルニクスはそれを言うのです。いま、核を廃絶するという主張もかなりそれに近いのです。
中野 そういう潮流があるとすれば、その潮流を生んだ立役者はブッシュ前大統領になる。ブッシュが一国主義、イラク戦争の失敗、そして経済破綻をもたらした。勝利したはずの資本主義が結局だめになった。そこから人々は新しいパラダイムを求めだした。とんでもない悪役がいたから正義の味方が人種を越えて誕生した。そこに鳩山首相が登場して、レジーム・チェンジを行った。話は変わりますが、賀川をノーベル文学賞に推薦したのは誰なんでしょうか。
 47年の場合は、地元のノーベルアカデミーの会員、翌年はシルクロード探検で有名はスゥエン・ヘディンでした。日本や中国の専門家とされていました。
中野 アインシュタインも世界連邦を支持していましたよね、そういうところからの推薦とかもなかったのでしょうかね。
 YMCAのリーダーの一人でアメリカにジョン・モットという人がいます。賀川を、世界で今最も神に近い人物として賀川を紹介しています。それから世界連邦運動の初代会長のイギリスのロイド・ボア。この二人は戦後相次いでノーベル平和賞を受賞し、シュバイツアーも受賞しています。流れの中で次は賀川に違いないという雰囲気はあったはずです。
中野 将来、賀川豊彦賞なんてものが生まれたらいいですね。
 実はそういう話がすすんでいるんです。問題は資金です。ノーベルはダイナマイトの発明で巨額の資金を持ちました。賀川の場合も印税は半端でなかったのですが、全部貧しい人たちのために使ってしまいました。(笑い)
中野 長い目で見ると、お金として残すか、救済という精神面で残すかどちらかといわれたら難しいですね。
 今年は献身100年で賀川の再評価をやっているのですが、特に資本主義がおかしくなったことから、賀川の経済論に着目する動きが出ると思っています。世界大恐慌の後も賀川が主張していた協同組合が世界的に注目されたのです。賀川が世界的に有名になるきっかけでもありました。(続)