協同組合の理論と實際(1) 賀川豊彦

  

 社會意識によつて繋がる。「社會は精神の衣である」と、社會學の創始者アウグスト・コントは云うた。意識の目醒めの無いところに計画經済も無ければ、統制經済もあり得ない。自然のまゝに生活するものに經済は不必要である。經済は意識と共に展開する。利己意識に資本主義は根ざし、國家主義にナチスファシストが産れ、階級意識と共にマルクス經済が生長する。全世界の全人類を包括し得るものは蓋し全社會連帯意識を基礎とする協同組合經済でなければならぬ。國際聯合が國際協同組合本部をサンフランシスコ會議に招待したのも故あるかなである。協同組合の目醒めの外に世界平和の道なく、侵略戦争絶滅の道は無い。全世界四分の一の人々が今や協同組合に加盟してゐる。この爲めにこそ我等は奮起して、日本の協同組合化に専念すべきである。協同組合は産業民主の根本方策であり、政治的民主主義の根底をなすものである。

 一、世界の現勢と協同組合運動

 世界は、僅か半世紀と經たぬ間に、恐るべき二つの大洪水を經験した。一九一四年の第一次世界大戦と、今回の第二次世界大戦とである。第二の大洪水の引いた後、世界は敗戦國といはず、勝利國といはず共に深刻な悩みを通過しつつある。
 今次の戦争で世界は距離的にも飛躍的に縮小する一方である。汽車・電車・自動車から、更に驚くべき高性能の飛行機の出現、ロケット飛行機までとび出さうといふ時代である。
 そればかりではない。更に國家と國家の関係に於ても、世界に現存する六十五の國家群も、アメリカ合衆國の組織にならつて、ユーナイテッド・ステートの代りに、ユーナイテッド・ネイションズ(國家聯合)の時代に入りつつある。世界はてんでんばらばらであつてはならぬ。一つにならう。
 一つになつて平和を確立し全人類の福祉を押し進めてゆかうといふ考へに段々なつて来ている。
 地理的にも、政治的にも、文化的にもかうした著しい傾向が現れてゐる時、我等は經済の世界に於ても旧世界の無智と暗黒と惰性と自滅の中に閉ぢ込められて旧態墨守の盲目的空廻りに甘んじてゐてはならないのである。
 我等はかつて無秩序な經済状態が犯して来た辛い經験を生かして今までのやうに無統制で、ばらばらであつてはならぬことを痛切に察知しなければならないのである。
 眞理の目的性に背くものは必ず敗れる。我等はまづこのことをはつきりと銘記せねばならない。我等は、今や謙遜なる反省と静思の中に、全人類に喜びを與え、凡ての人が要求するところのものに速かに就かねばならない。
 經済機構も、生産、分配、消費の傾向が、全部物質及び本能的な經済行動から救はれて、初めて意識的に移り、生命的な一つの大きい愛の組織を形成せねばならないのである。
 その愛の經済組織とは、ここにいふ協同組合運動のことである。
 我等は、世界を一つの協同組合經済の世界とする爲に、あらゆる無用なる經済はこれを破壊して、世界の經済を建て直す協同組合への道を獅子奮迅の勢ひで努力せねばならない。
 しかもその理想達成へまでに到達するには容易ならざる幾多の段階を經ねばならぬであらう。しかも我等は如何なる困難が襲ひかからうとも不滅の勇気をもつて、これを勝ちとるまで邁進する者でなくてはならない。(続)