協同組合の理論と実際

協同組合の理論と実際(18) 賀川豊彦

廿七、協同組合を基礎とする國家改造 眞のよき國家を作らうとするならば、単なる國家では足らない。國家の下に組合といふものがしつかりして、一人でも組合負をして餓ゑしめぬやうに、また貧乏させないやうにしなければならない。 日本では、政黨の歴史とい…

協同組合の理論と実際(17) 賀川豊彦

廿六、協同組合運動の教育と訓練 さて今度は、いよいよ協同組合の實際についてであるが、協同組合運動を活發に、且つ健正な運營にするまでには、まづ協同組合に對する理解を啓蒙せねばならない。 これには、あらゆる犠牲を拂つて教育し訓練してゆくより他は…

協同組合の理論と実際(16) 賀川豊彦

廿五、利用組合 國家社會主義の弊害は、産業組織の經營を餘りに、官僚的に取り扱ふところにある。そのために、國民の中には國家の産業機関を粗末にする傾向が生ずる。それに反して、協同組合の管理に基づく利益は、地方的自然資源を完全に利用し得るところに…

協同組合の理論と実際(15) 賀川豊彦

廿四、保險組合 第六に保險組合について述べよう。 保險は近代經済生活中での最もよく發達した部門の一つであるといはれてゐる。 意識的經済學が發達すればする程、その經済價値行動が猛烈な活動を始める。 譬へて見れば、生命價値に就いて昔はさう大きな經…

協同組合の理論と実際(14) 賀川豊彦

廿二、販売組合 生産組合が。消費組合と直接に聯絡することが出来るならば、販売組合を作る必要はない。然し、消費系統が明瞭でない場合は、どうしても販売組合を作つて大都市の消費階級と関係を結ばねばならない。これは米國に於ても、第一次世界大戦前から…

協同組合の理論と実践(13) 賀川豊彦

廿一、信用組合 第三には、信用組合についてである。 國家の信用といふものは、國家を組織する國民の七つの經済的價値運動の組織化に伏在してゐる。即ち(一)國民の生活力、(二)國民の勞働力、(三)國民の市場確保力、(四)國民勢力の増進力、(五)國民…

協同組合の理論と実践(12) 賀川豊彦

十九、生産組合 第一に生産組合について述べよう。生産組合は、土地生産組合と、工場生産組合の二つに分類する。 日本には、前述したごとく昔から一種の土地生産組合と称すべき「地割制度」があつた。これは周期的に襲うてくる洪水で田畑を荒される地方に存…

協同組合の理論と実際(11) 賀川豊彦

十七、生産の芸術化と消費の文化的意義 人間は、喰ふために生きてゐるのか、生きてゐるために喰ふのか。人間の存在が、ただ飢餓と要求といふことに於てのみ、生産と消費とが需要と供給の理によつてのみ解釈せられるならば人間の經済生活は色澤も味もない落莫…

協同組合の理論と実際(10) 賀川豊彦

十六、精神運動としての協同組合 協同組合は、単なる機械的な組織ではなくして精神運動であるといふことをまづ心にとめてゐなくてはならない。 ある學者が協同組合は「正直の資本化」といつたが、なかなか味のある言葉だと思う。協同組合が精神運動であるか…

協同組合の理論と実際(9) 賀川豊彦

十四、日本に於ける協同組合の歴史 我國に於ては古来、無尽・頼母子講といつたやうな極めて通俗的な意識ではあるが、一種の共済組合的制度が民間に行はれてゐた。 叉、地割制度と称する、一種の土地利用組合も存在した。これは、洪水で苦しんだ地方、例へば…

協同組合の理論と実際(8) 賀川豊彦

十二、協同組合運動の芽生え 我等はここで協同組合(Co-operative Society)の歴史を辿つて見たい。 この協同組合合(Co-operative Society)を、滿洲及び支那では、「合作社」と称してゐる。 この協同組合運動を思ひ付いたのは、英國のロバート・オーエンが…

協同組合の理論と実際(7) 賀川豊彦

十、寺院建築に現れた信愛的調和美 このベネディクトの精神に、十三世紀のあのうるはしいフランシスカンの兄弟愛の精神が加はつたのがゴシック文明である。 ベネディクト修道院を基礎として商人ギルド(組合)が生れ、職業ギルドが生れ、このギルド(組合)…

協同組合の理論と実際(6) 賀川豊彦

八、協同組合の本質 協同組合の精神を一口にいへば助け合ひ組織である。生産者も、消費者も愛のつながりによつて公正な、自由な幸福を頒ち合ふ經済生活をいふ。更に宗教的に、キリスト教でいふ兄弟愛意識の發展としての協同組合をみることが出来る。 經済生…

協同組合の理論と実際(5) 賀川豊彦

七、協同組合は如何なるものをもたらすか 協同組合を組織すれば、いかかることになるか。 闇の起るといふ隙がなくなる。 適正價格によつて公正價格を決定することが出来る。 買出しをする必要がなくなる。 勞力が省けて、餘裕能力を生ずる。 計画輸送が充分…

協同組合の理論と実際(4) 賀川豊彦

六、協同組合の有る無しの差違 そこで生産・消費・分配の同義的、芸術的、社會的、共榮的、共助相愛的な機構運營が現れねばならない。これが協同組合組織である。 今月、日本が直面してゐる最も深刻な食糧問題を、根本的に解決しようとするならば、この協同…

協同組合の理論と実際(3) 賀川豊彦

三、資本主義社會の悲哀 これを見れば。単なる教條的な宗教も、ただそれ丈で固定してしまつては、社會不安を除く力を持たず、唯物的社會主義も經済革命を完全し得る力を持つてゐないと言ふことが判る。 まして資本主義が、永遠の社會組織に役立たないことを…

協同組合の理論と実際(2) 賀川豊彦

二、協同組合なき社會の恐るべき混亂 飜つて、我等は現實の世相を直視せねばならない。そこには何が展開されつつあるか。 窮乏・飢餓・不安・闘争・失業・闇の横行・混亂・恐慌、等々の深淵が、暗黒なロを開いて人々を呑みつつあり、且つ呑まんとしてゐるの…

協同組合の理論と實際(1) 賀川豊彦

序 社會意識によつて繋がる。「社會は精神の衣である」と、社會學の創始者アウグスト・コントは云うた。意識の目醒めの無いところに計画經済も無ければ、統制經済もあり得ない。自然のまゝに生活するものに經済は不必要である。經済は意識と共に展開する。利…