世界国家11 北斗星のまたゝき(1948年1、2月号)

北斗星のまたゝき

 北天に秋北斗は瞬く! 干億年の歴史を笑て、彼はひとり瞬く。地軸は西に傾き、東に北に、二十三年度半の傾斜に、さらに十七度を加えて、振動する。その周期二万六千七百年!堯も告げず、禹も周も未覚のまゝに過ぎ行く。 宇宙の壮大は蔽うべくもなく、天空の絶大なる。何人もこれを咎むことが出来ぬ。しかし兀竜、飛鳥、時によりて天に挑み、天に嘲笑して、北斗に歯牙をむき出す。この二足動物の存在必ずしも無きにあらず、天は、そのものに一震動を与えて、その稚気を笑う。
 北斗心なきにあらず、無機物、考なきに非ず、無心の心は、天心に答え、無欲の欲、聖欲に通ず。乱心の学徒、盲目的生物的進化を説き、偶然が進歩を産み、盲目なる物的変化が、生物をして開目せしめたという。
 知らず、盲者は偶然に正眼を開き、唖者は舌なくして、物いう奇蹟を何人が教えしぞ? 生命は、自足し、生命は発奮す。生命は空間に旺溢し、生命は跳躍する、生命は最上を友とし、低級なる満足を蹂躪する。
 生命は浪費を厭わずして凡ての生に向つて躍進を要求する、生命は、草木の枯れ、動物の死ぬることを始めから、計算の中に置いている。生命は死を利用して跳躍を全生物に命令する。
 生命の旺溢は浪費の如くにも見える。それに、慣れたるものは、これを浪費し寄食し冒涜する。
 然し、すべての混乱を越えて生命の世界は上天の指向に背かず躍進する。百合は山頂に微笑み、鯨は北氷洋に潮吹く。深海魚は億年の昔より発電装置を持ち、東海の浮遊動物は創世の始めより、光電管施設を知っていた。何億年の昔より玉葱はラジオ・ロケターの原理を知り、蛹(さなぎ)は飛行術を塵芥の間に学んでいた。
 無知なるもの、無知に非ず、全能者は知者の知を恥かしむるために、路傍の小石にすら叡智を授け、北極星をして語らしめ給う。
 天を先にして、天に違わず、天に後れて、天時を奉ずれば、天もまた、しばらくも違うことがない。十年土中に潜み、一夏林間に鳴いて後、生命を終る蝉も、彼が天と共なるにおいて、その短かき空中の生活を悲しみはせぬであろう。            
 千億年の存在を持つ原子の本質を知らんとするものは、原子が一瞬間に示す火焔のスペクトラムを写真に取れば、それで満足する、根本実在者に触れたものには蝉の生活を短かしとはせぬ。
 基督は三年の愛の生活に、宇宙根本実在者の贖罪愛の血脈を伝える、一羽の雀に、一枚の桐の葉に、私は実在者の至妙至覚の奥儀を悟る。
 北斗は瞬き、スパルはさし招ねく、私等の語ることを悟り得る者は、絶対至愛の法悦に歓喜する。(一九四八年一・二月号)