世界国家
山羊を送つてくれる人々 戦後日本に山羊や牛を親切に送つてくれる人々は、普通ブラザレンとよばれているけれど、実はメノナイトと称せられている団体に属しているのである。メノナイトは四百年以上もつゞいている誠に珍しい宗団で、絶対反戦主義キリスト教的…
フアウストは海に畑を作ることを夢想した。私は海に牧場を設くることを夢見る。太平洋に鯨を飼い、海豹を太西洋に養えば、世界の人口が百億になつても、食糧に窮することはないであろう。海洋を征服せよ、海洋を。黒潮に国境はなく、怒濤に民族性はない。日…
真理の坑道の掘索に けさも 午前四時に起き上つたよ。 無理をして 無理が通らず 十年の克己なくして 真理の鉱脈を掘りあてることはできない。 あゝ 真理は 自制するもののみに組する。 急いで追いつかず 求めずして得られざる真理は 娼婦の如く求めざるに来…
初秋の野道小溝の側に露の玉を抱いたつゆくさが、私を甘露の宴に招待してくれた。太陽はまだ昇らず、松虫は昨夜からセレナーデを継続していた。 かやすがは縁の長細い葉を抛物線形に垂れ、かやつり草は清爽な姿を清水に写していた。密生したはこべは弾力性を…
――世界連邦国家の出発―― 春が来れば、蕾は開かずにはおらぬ。太陽が南から帰れば結氷は解けるものなのだ。霊魂の蓄が!そして人間の意識の結氷が不安定になつた日に全人類連帯の世界連邦の芽が生えるのだ。それを空想と笑つてはならない。誰れが南太平洋の喰…
革命は一日にして成る。ザア・ニコラスは、クロンスタツトの砲声に驚き、ケレンスキーは戦わずして逃げた。キールの一撃はイザル・ウヰルヘルム三世の王冠を射落した。 然し、愛は一日にして成らない。 愛が一日にして成らないから、民衆は容易なる剣銃の道…
桜はまだ蕾を綻ばせず、麦は大地から、恐る恐る首をつき出して今年の天候を伺つている矢先に、武蔵野の蛙は元気よく、冬眠から醒めて産卵をはじめているのだ。蛇の目ざめる前、野鼠のあばれ出す以前に、裸坊主の蛙は敵のいない事をよく知つて、ちゃんと生命…
久しく訪れざりし 讃岐豊島に 今日は また帰つて来た。 日華戦争から 太平洋戦争まで 巣鴨刑務所を出て ことに自らを追放し 島影に祈つて もう三年の歳月はながれた。 その間 日本は 倫落から 倫落へ 亡国の悲哀を味つた。 集団強盗は横行し スリは駅にあふ…
剣が社会を作つていた時は、もう過ぎた。刄が日本魂だなどと考えている時は、もう過ぎた。愛の外に日本の精神はもつてはならない。愛は最後の帝王だ。愛の外に世界を征服する者はない。世界帝国の夢想者は凡て失敗した。刀剣の征服は一瞬であつて、その効力…
世界国家と警察制度 世界国家の創設 日本は新憲法の前文とその第九条とにおいて、戦争を放棄して平和国家の建設を宣言した。戦争放棄を宣言したのは、文明国としては三度目である。第一回はちようど百年前の一八四八年二月にフランスが行い、第二回はスペイ…
完全なる愛 キリストは。我儘な道を歩まず、疲れを知らぬ人間として歩いた。しかも、人間として自分の意識を目醒めさせて、神の如く歩いた。人間の中に神の力が帰つてきて、その証明にならなければ宗教は役に立たぬ。 キリストは孔子や釈迦とも違つて、完全…
――暴力主義と唯物主義を排す―― 闘争主義を排す 天地宇宙の理法は、ニーチエ、トライチユ、スチルネル等が唱導じ日本の軍閥が考えた「闘争が宇宙を進化せしめる」というようなものではない。その反対だ。互助が巧く行けば行くほど、進化は早い。動物の生態研…
成長にも、成長を早くしていいか、遅くしていいかに就ての選択性が働いている。一方に成長素があると、他方に成長を抑制する抗成長素(AVITON)がある「+」の「成長」力「−」の反成長力がうまく組合わされて、調和している。卵ではきみに成長素があると、し…
古代エヂプトでは、科学と宗教は完全に調和していたが、近代における自然科学の進歩により、科学と宗教が分離するに至つた。哲学者カントは純粋理性批判において一旦、科学と宗教とを分離させたが、実践理性批判では、彼の形式的合目的論においても、一度科…
キリストは「時」を行動に対する大切な要素として、いつも計算に入れられた。 舟には潮待ちと云うものがある。逆潮では、瀬戸内海でも、朝鮮の仁川でも、九州の有明湾でも、運航の出来ない場合がある。キリストすら、エルサレム行に「時」を待ち合せられた。…
無事なる時、無難なる時、多難を知り、多事を予則し、悠々天と共に黙し、梢の如く、天に向つて呼吸することも神韻の福音である。 天は語らずしてよく語り、大地は黙々として行動する。母胎に成長する胎児は成長することを知りて語ることを知らず。ピラトの前…
雪は 水滴に更衣して五色の礼装に 自ら包み葉より葉を伝う 雨垂は雪の変装に柏子をとる朝日は 春を呼び醒し森は忽ちにして 息をふき返した小鳥は 梢に燥ぎ陽炎は春の復活に先躯して天上に駆け上る武蔵野の 午前九時 燦々たる太陽は真白き雪の画布に千百の物…
性による死の到着 生存競争を経ずして、「性」というものが、先に地球に到着した。性が複合的進化をもつて、あらゆる条件、客観的環境に適応しつゝ、進化発展しようという目的を持ちはじめてから、地球の形相が違つて来た。上へ上へと複合進化しようとすると…
―世界苦とその救済― 生、病、老、死 生、病、老、死、この四つの苦しみを印度の釈迦牟尼は無明の本質と考え、王宮を捨て、仏陀枷耶の六年間の隠遁生活をはじめた。今日世界で、一番問題にしている事はやはり、同じ四つの苦しみであろうと思われる。即ち、第…
太陽を射るもの 昔、台湾には二つの太陽が輝いていた。台湾の熱いのはそのためであった。一人の理想に燃えた男が、この二つの太陽の、せめて一つでも射落して台湾を焦熱地獄から救い出さうと思い立ち、弓矢を背にして太陽に向って進んだ。多くの年月は経過し…
唇を開かない児に、乳を与えることは出来ない。食慾の無い病者に滋養分を補給することは出来ぬ。 求むるものにのみ与えられ、尋ぬるものにのみ発見されるということは永遠の真理である。成長せんとするものは要求を持つ。目的を持つものは発見を急がねばなら…
―戦闘的平和運動の展開― 一九〇七年ノーベル賞をもらったルコント・ドノイの「人類の運命」によると、宇宙進化は、ほとんどその方向を決定している。混雑し混沌とした中から良心生活へまで発展している。人間社会には戦争もいく度かあり、性欲方面の失敗もあ…
「平和」は仮想ではない。平和は、夢ではない。平和は、我らの憲法に、保証せられ、平和は、我らの戸口に待っている。 然し、心の平和は、日本に、来ていない。心から、始めなければ、絶対に、平和は恒久的であり得ない。 そのために、平和は、受胎告知の日…
北斗星のまたゝき 北天に秋北斗は瞬く! 干億年の歴史を笑て、彼はひとり瞬く。地軸は西に傾き、東に北に、二十三年度半の傾斜に、さらに十七度を加えて、振動する。その周期二万六千七百年!堯も告げず、禹も周も未覚のまゝに過ぎ行く。 宇宙の壮大は蔽うべ…
――平和の可能性―― 獅子は牛の如く藁を喰い、幼児は毒蛇の洞に戯るとも害われることなき世界を昔の予言者は夢みた。 生存競争による進化論を提唱したチヤルス・ダアウヰンの甥サー・フラソシス・ガルトンは「人間機能の研究」においてかくの如き空想が現実と…
愛国心だけでは足りない ロンドンの大英美術館の東側に一つの銅像がたつている。背面は十字架。前面は、イギリス兵でない他国の軍装をした負傷兵をやさしく掻い抱いている一人の看護婦の像。そして像の台石には「愛国心だけでは足りない」と刻まれている。こ…
私は飛行機を 発明できませんしかし 今朝私はおそろしいものを発見しました。―いや発明といつたが 善いでせう。銀、金、銅、鉛色―恐ろしく 光る 私の衣服の縞柄……汚れた衣服の私はその瞬間 縞柄とは信じませんでした。神の家の窓と思ひました。また 私の手私…
私「盲目の日本の盲目の指導者、私は監房に閉ぢ込められて、日本の落ちて行く将来が心配になる」 私がそう云つて、独言を云つていると、目頭の涙が小さい声でささやいた。 涙「実際、日本はだめですよ。すべてに行きつまつてゐる日本に希望なんて持てるもん…
マルチン・ルーテルが。宗教改革を始めた頃、ライン川の上流スヰスのツーリツヒに山上の垂訓を実行せんとするヤコブフツテルの一団が、無傷害愛運動を始めた。又ライン川の下流に於て、シモンメノールが同じ頃、無傷害運動を始めた。この時代、マルチン・ル…
一 一八七一年、普仏戦争後疲弊した独乙を救わんとして、一士官ライフアイゼンが、自分の住んでゐる町、ライン河の畔なるハーデス ブルゲに一つの協同組合を作つた。これが農業協同組合の始めであつて当時英国マンチェスターにあつたロツチデール消費組合と…