世界国家18 春の巣立ち(1948年4月号)

雪は 水滴に更衣して
五色の礼装に 自ら包み
葉より葉を伝う 雨垂は
雪の変装に柏子をとる
朝日は 春を呼び醒し
森は忽ちにして 息をふき返した
小鳥は 梢に燥ぎ
陽炎は春の復活に先躯して
天上に駆け上る
武蔵野の 午前九時 燦々たる太陽は
真白き雪の画布に
千百の物象を彩って行く
昨夜の吹雪は
忽ちにして春の序曲とはなり
自然の激変に
陽炎は変化の如く雪肌をなめまわす
春はこの陽炎より巣立つのだ!
(一九四八年四月号)