29 「愛の王国を建てよう」(1948年10月号)

 革命は一日にして成る。ザア・ニコラスは、クロンスタツトの砲声に驚き、ケレンスキーは戦わずして逃げた。キールの一撃はイザル・ウヰルヘルム三世の王冠を射落した。
 然し、愛は一日にして成らない。
 愛が一日にして成らないから、民衆は容易なる剣銃の道を選ぶのだ。そして人類は永遠に剣の刄を渡らせられる。渡り損ねたものはその儘引裂かれて倒れるのだ、人類の手品師よ、兇女よ、魔術師よ、世界の凡ての剣の刄の上を数箇師団が通れるか計算してくれ!
 私は失望しない。地上の愛の早魃を見て怖れない。私は更に数尺か、数百尺か、衷なる自己の魂を掘り下げよう。愛の泉は、地上に求むることは出来ない。それを生命の源に尋ねゝばならない。
 悲しき日よ、去れよ、剣銃の手品師よ、往け、私は神と共に愛の王国を地上に建てねばならぬ。
 さらば十字架も、死も来るがいゝ。それが愛のためならば、私は悦んで死のう。(一九四八年十月号)