伴武澄が語る「甦る賀川豊彦の平和思想」(6)

 ユヌスさんはこういうことを言ったのです。「先進国の人たちは、ODAを通してバングラディッシュ職業訓練とかいろいろしてくれる。でも、私の国には、そもそも雇用という概念がないんだ」と。分かりますか。雇用というのは、会社とか、役所とかに勤めて賃金をいただくという労働形態ですね。

 ユヌスさんが始めたのは、農村の女性たちに1,000円とか2,000円を貸して、「糸を買ってきなさい。それで織物をつくって売りなさい。それから、鳥を買ってきなさい。その鳥を育てて、卵を生ませて、卵を売ればいいでしょう」ということです。元々そういう生活をしていたのですが、その1,000円、 2,000円の元手を高利貸から借りていたため、その日暮らししかできなかった。ユヌスさんは、それを低利で貸すことを試したのです。今ではマイクロ・クレジットといって世界中に広がっています。もう30年、40年やっておられます。

 次に彼が思い付いたのは、ソーシャルビジネスという概念です。「投資してください。だけど、配当は払いません」。資本主義ではちょっと考えられない。そんなものに誰が投資するんだと。ユヌスさんがあくまでもビジネスにこだわった理由があります。

 例えば、慈善事業で100億円寄付してくれる人は結構いるんですよと。もっとくれる人もいるんです。でも、それって1回使ったら終わりじゃないですか。「寄付は無くなる」が「投資なら、投資額は返す。配当とか利息はつけませんが」と言います。そうしたら「事業者は返済する責任が生まれ、例えば利益を上げて5年間で返却しようと努力する。投資した方は、5年後にその元金が戻ってくれば、5年後にまた違う事業に投資できるではないか。こういうのをサステイナブル(持続可能)というんだよ」

 なるほどなと思いました。この新しい概念は既に、フランスの2つの会社に受け入れられて事業は始まっています。