伴武澄が語る「甦る賀川豊彦の平和思想」(8)

 米沢和一郎さんという賀川豊彦研究家がいます。明治学院大学キリスト教研究センターの研究員をしていました。その前は財団法人雲柱社の賀川豊彦記念松沢記念館の研究員でもありました。大変な方で、海外での賀川の活動を克明に研究しました。各地に賀川の資料が多く蓄積されていることを彼は知って驚くわけですね。アメリカでもヨーロッパでも。実際ルーマニアにも賀川の資料が残されてあったりするのです。びっくりするでしょう、そのようなわれわれの知らないヨーロッパの賀川、それから、アメリカの賀川を文献から調査しました。それを読みますと本当に驚きます。

 スラムでの生活、労働組合運動での賀川、次は農民組合、それから協同組合の賀川がいますけれども、6月に『友愛の政治経済学』(英文で『Brotherhood Economics』)という本がコープ出版から出ました。英語で出版された賀川の本です。1936年にニューヨークのロチェスター大学神学校のラウシェンブッシュ講座した内容が同年、ハーパー社から出版されました。ラウシェンブッシュ講座はラウシェンブッシュ先生にちなんで毎年、世界の著名なキリスト教者を招いて3日間の講座を開き、その内容が出版されるというプログラムです。残念ながら当時、日本語には翻訳されませんでした。今回、初の日本語版となりました。

 賀川先生がロチェスター大学で講演するに到る経緯があります。1935年の12月からの北米の旅はアメリカ政府の招待によって実現したのです。「大恐慌以降の経済立て直しのためにアメリカ国内で協同組合を広めてくれ、普及してくれ」と言われたんですね。本当ですよ。半年ぐらいの滞在期間に、大体70万人から80万人の人が賀川の『Brotherhood Economics』の話を聞いています。日に3回、4回講演することもあったそうです。大きい会場では8,000人集まるんです。だから、多分、この会場の100倍ぐらい観衆がいるわけですね。顔を見えないところ、声も聞こえないような大きな会場で、どうしてそんなに集まるのか。不思議ですよね。でも、この中身を読むと面白いんですよ。

 メモしてきましたので紹介したいと思います。

 1929年、アメリカで大恐慌が起きますね。つまり資本主義が破たんしたのです。今と同じです。賀川はもともと資本主義に対しては「搾取的だ」といって否定していましたが、その資本主義がついに破たんしました。当時、隆盛を極めていたのはソビエト、ロシアの社会主義でした。計画経済が軌道に乗り始めていた。でも、「社会主義は暴力的だ」と言って、やはり否定するわけです。西ヨーロッパでは、社会民主主義、民主社会主義が台頭していました。イギリスの労働党、ドイツではワイマールで社会民主党的政策をやる。これも否定するのです。どうしてかというと「あれは上から押し付けているからいけないんだ」と言うのです。「民衆が自助互助でつくっていかなくてはいけないんだ」というのが賀川の考えでした。

 もちろんナチズムやファシズムも否定するのです。皆さん、誤解してはいけません。ファシズムもナチズムも社会主義なんです。一見右翼っぽいですけれども、社会主義なんです。

 賀川にとってはブラザーフッドに基づいた協同組合、このブラザーフッドが重要なんです。友愛経済でなければいけないのです。賀川は7つの協同組合ということを提唱します。消費組合、生産組合、販売組合、信用組合、共済組合、利用組合。あらゆるものを協同組合でやればうまくいくのだと言います。