伴武澄が語る「甦る賀川豊彦の平和思想」(11)

 話は戻りますが、この本に「友愛」と書いてあるでしょう。友愛はブラザーフッドです。友愛の系譜というと鳩山由紀夫首相が言っている「友愛」にも突き当たります。この「友愛」はクーデンホーフカレルギー公が1920年代に書いた汎ヨーロッパリズムという本に由来しています。クーデンホーフカレルギーは、お母さんが日本人で光子と言います。彼は東京で生まれています。リヒャルトは本名ですが、日本名はエイジロウと言います。日本名を持ったのです。クーデンホーフカレルギーは今のEUの生みの親と言われています。ヨーロッパが戦争に次ぐ戦争を繰り返していることに対して、もうこれ以上は戦争はやめなくていけない。そのためにどうしたらいいか。ヨーロッパの国境をなくそうということになった。

 ドイツとフランスの間に鉄鉱と石炭が産出するラインラントという地方があります。ルールです。フランスとドイツがずっと100年来取り合っていました。「最後の授業」というフランス映画があります。ドイツに取られたある村の学校で「今日は最後のフランス語の授業となります。明日から授業はドイツ語の授業になります」というシーンがある悲しい物語です。しかし、現実はそう単純ではありません。村の家々ではドイツ語を使っていて授業だけがフランス語だったのです。つまり、フランスの占領地だったのです。フランスが戦争に勝ったから、そういう小説が残っているわけですね。ドイツが勝ったら、最後の授業というのは、「今日は最後のドイツ語の授業」となったはずです。そういう地域がヨーロッパにあります。

 第二次大戦後に画期的なことが起きます。1951年にフランスのシューマン外相がルール地方の石炭と鉄鋼を国際的に管理しようと言い出し、欧州石炭・鉄鉱共同体という組織をつくります。多くの国がそれに賛同しました。フランスにまた取られると思っていたドイツはもちろん大歓迎。ヒトラーが奪い返したものをまた取られるかと思った。EUは取ったり取り返されたりとか、そういう繰り返しの地域を共同で管理するというところから始まっています。

 1951年というのは、日本が平和条約を結んで、国際社会に復帰するときですが、多くの日本人には欧州石炭・鉄鉱共同体の意味するところが分かりませんでした。賀川は一人非常に喜びました。この本の中で賀川が目指していたものが実現したのですから。