北欧印象記(2)

世界平和と協同組合貿易

スヰーデンが中心となって、電燈の製造を協同組合的にやってゐる。かうした工場は欧米の他国にはないことであるが、スヰーデンでは協同組合による生命保険が発達してゐるために、基本産業を買収する資金はいつも豊に持ってゐる。
しかも最近は、ノルウェーフィンランドデンマーク、及び一九三四年よりスコットランドが加はって、電燈の貿易を国際協同組合によって実行してゐる。勿論その精神は消費組合の根本原理ともいふべき、ロッチデール主義に即してゐる。即ち生産国も消費国も、利益を利用高に従って按分するわけである。
恐らく将来、欧洲の諸国に於いては、かうした国際貿易を基礎にして、経済的平和が進展し、それが、世界平和の楔となるのであらうと私は思ってゐる。
国際消費組合同盟に加盟してゐるものは世界を通じて一九ヶ国あり、資金を約二〇〇〇万ドル持ってゐる。本部をロンドンに置き、搾取を離れた世界貿易を発展させ、一日も早く世界平和を来らせたいと祈ってゐるのである。
我々もかうした大理想のもとに、世界平和への努力を惜んではならぬと思ふ。

フィンランド

フィンランドも面白い国だ。ロシア革命後、独立を宣言した、実に良く纏った国だ。農民は豊であり、金持といへども一五〇町歩以上の土地は持てないことになって居る。スヰーデンと同じく生命保険組合が基礎になって協同組合を造って居るのが、北欧協同組合の特徴である。私は、世界の協同組合運動がスヰーデン及びフィンランド流にいかなければ、嘘だと思った。
フィンランドでは、日常必需品の八割近くの物品が、消費組合の手をくぐると聞いて、全く羨しいと思った。
フィンランドエストニアハンガリー、トルコの諸民族は、皆アジア系統の蒙古人種の血が混ってゐる。然し、そのうちにも、フィンランドは、蒙古系統の精神が、全くなくなってゐると考へて善いと思ふ。唯面白いのは、教会に行って結婚する時には、胸に鏡を吊り、頭に鏡を飾る。之は、太古、日本の子等がやって居た風習によく似てゐるやうな気がする。神社の前に鏡を飾るのは、斯うした点から出て来たのではないかと、私は考へて居る。
ハンガリーに行っても、此の風習は同じである。フン人種がフヰン人種に分離して行っただけのことである。然し言語といふものは妙なものであって、文法は同じでも、ハンガリー語と、フィンランド語とには僅か二十数語しか同じものがないといふことである。フィンランドの議会に行って、食堂迄が消費組合で経営されて居るのを見て、嬉しく思った。田舎にも行って見たが、百姓家等が非常に清潔であって、日本の東北のそれと比較して、雲泥の差があると思うた。

腐らないライ麦麵麭

フィンランドで一つ感心したのは、醗酵素ライ麦粉の中に入れて、何年間も腐敗しないパンを焼く工夫を知って居ることであった。日本の農村に之を教へることが出来るなら、東北に飢饉なんか、絶対になくなる筈だ。人口の二割五分迄は、スヰーデン系統の人々であって、公の言葉としては、スヰーデン語、及びフィンランド語、どちらでも善いことになって居る。大体、金持はスヰーデン人であって、農民及び労働者が、フィンランド人だといふ傾向がある。