傾ける大地-48
四十八
そんな事があってから間もなく、新議員によって成立した第一回の町会が開会せられた。そして加納兵五郎呼戻しの話が出た。然し結局それもものにならず、助役の田島を町長に据ゑることになった。水道会社買収調査委員会が出来た。その委員長に桜内が推された。これは会社の事情に通じてゐる者が善いといふことで、さうなったのであった。
新議員に改造的精神の少いのを見て取った細見一派は、痛烈な批評を新議員に浴びせかけた。当選祝賀会の晩、榎本や堤が酒に酔払って、芸者を困らせた話も、ゴシップで素破抜かれた。
実際、町会議員に収り返った黒衣会の面々は、批評を加へられでも仕方が無い程、旧い勢力と妥協してゐる。彼等は、鬼政の圧迫を恐れて、遊郭指定地の問題は勿論のこと、競馬場の問題には、指先もよう触れなかった。
その反対に、彼等は一層杉本から遠ざかった。榎本は、杉本が主張する消費組合運動が、高砂町の繁栄に妨害になるとまで云ひ出した。そして、彼は杉本英世を角丸商会から遠ざけてしまった。それのみではない。黒衣会の一派は農民組合の演説会には、一切公会堂を貸さぬことにしてしまった。
それから間のないことであった、黒衣会が解散したといふことを三上が杉本に話したのは。