飛行機文明の時代国際平和協会機関誌「世界国家」(一九五一年一月号)

  飛行機文明の時代

  ――国境争いは鳥が笑おう――

 人間は、なぜ戦争をするのだろう。なぜ人間同志、相愛しないのだろう。まるで蝸牛角上の争いではないか。この態度を改めねば、人類の滅亡する日も近いであろう。

 わたしは欧州の空を、太西洋の空を、そして今、アメリカの空を東に西に、南に北に飛びまわって、痛切に地球の狭いことを感じている。そして、この狭い地球で、国境を相争い、戦争をくりかえしている人間の愚かしさ、あわれさが、しみじみと感ぜられるのである。

 私は今、北米全土にわたって、飛行機を飛ばせているが、時間的に見れば現在の米大陸も、往年の四国一島、いや一府県ぐらいのものとなった。飛行機文明が、それだけ距離を短縮し、地球を小さくしてしまったのだ。
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 米国の飛行機文明は、秩序よく発展している。国内向けの飛行機会社の中では、「アメリカン」など一番大きいらしい。日本その他外国向けの「パンアメリカン」も大きいが、国内ではサーヴイスをしていない。「アメリカン」は子会社があるらしく、表面には出していないが。太平洋沿岸を飛んでいる「ノースウェスタン」は「アメリカン」の看板の下で仕事をしている。

 北米中央部で幅をきかせているのは何といっても「ユナイテッド」であろう。これは南部諸州を東西に連絡し、ニューヨーク、ワシントン、そしてオクラホマ州タルサと飛んで、加州のロスアンゼルスに連絡しているのを見ると、「メーンライナー」とは相当に関係が深いことを思わせる。

 「T・W・A」即ち「トランスワールド・エヤライン」は、四発飛行機だけを動かし、大都市ばかりを東西に連絡しているが、あまり子会社とは連絡していないらしく、おうような経営ぶりを見せている。各会社とも秘密主義で各社で何台動かしているか表していないので、統計をとることはできない。

 北米東部沿岸を南北に飛ぶ飛行機会社の大きなものといえば、まず「コロニヤル」をあげねばなるまい。これはカナダから飛び出して、ニューヨーク、ワシントン、フロリダ州カリブ海、ブラジル方面まで翼を延ばしている。

 シカゴ中心に「キャピタル」という会社がある。四発の大飛行機を南北に飛ばせている。そして南部諸州の子会社と、よく連絡している。

 私は過去一ヵ月に、これらの会社の飛行機に、みな乗って見たが、各会社とも競争が激しいので、機内では、きっと食事を出してくれる。午前十一時ごろでも昼食をすすめてくれる。飛行地図をくれる。サーヴイスは、至れり尽せりである。

 四発のものは、飛行速力も早く、一時間約二百五十マイルぐらい出るが、双発のものは、それより百マイル落ちる。単発のものは、さらに遅い、早い自動車ぐらいの速力しか出ない。

 ニューヨークの飛行場は数ケ所に散っているが、内国便は、市街の東北ラーガルディヤ飛行場を、主として使用している。

 英国飛行機会社は、さらに、それより東北十マイル以上のところにあるアイドルワイルドの新飛行場を使用している。私は英国から飛んできて、そこに降りた。

 米国には現在、一千百五十ケ所の飛行場があり、切符売場が二万五千ヵ所あると、キャピタル飛行機会社の案内書に書いてあった。ニューヨークとロスアンゼルス間の空の旅を、一晩十三時間ぐらいで、突破できるので、昔、六日間も汽車にゆられたことを思うと、今昔の感が深い。

 しかも代金は三等の汽車賃と競争するだけに下げて来たから、たまらない。飛行場の混雑するのも、もっともである。

 私はニューヨーク、シカゴ、ロスアンゼルス、サンフランシスコ等の飛行場を約三週間の中に、何度も使用してみて、その混雑状態には、ほとほと驚いてしまった。それは、欧州ではとうてい想像できないものであった。何しろ、飛行機の発着所が複雑しているのと、飛行機が、あまり沢山あり、たがいに競争していて、ほとんど同一時刻に出るのだから、どの飛行機にどの乗場から乗ってよいのか、まごついてしまう。おそらく、日に数万人の乗客が空を飛んでいるのであろう。飛行機文明も進んだものである。

 七十人乗りぐらいになると。海抜二万五千フィートぐらいを、いつも飛んでいるので動揺は全くなく、層雲を二つ乃至三つぐらいを下に見下すので。景色の観賞といえば、雲の美だけである。双発のものになると。砂漠地の上空などで、相当にゆれる。

 しかし、鳥になったと思えば、却って小さい飛行機の方がおもしろい。

 事故は少いし、本は読めるし、御馳走はしてくれるし、飛行機文明様々である。こんな時代に国境あらそいをせねばならぬかと思うと、悲しくなる。早く、世界連邦を作らなければ、空を飛ぶ鳥にわらわれよう。(ニューヨークにて)  (一九五一年一月号)