ケアの贈りもの 国際平和協会機関誌「世界国家」(一九五一年一月号)

  ケアの贈りもの

 きのうの敵国日本国へ、アメリカから贈られたケア物資が、昭和二十三年七月以降、今日までに十万個、約百万ドル(三億六千万円)に達したと聞いて、いかなる日本人も、感謝しないではいられないであろう。これは「敵を愛せよ」といわれたキリストに倣ったアメリカ人の行為であることは、いうまでもない。神は神の作り給うたいかなる小さい者をも愛して、ほろぼさせ給わぬという連帯意識から、この敵を愛する精神は生れる。そして、この連帯意識が、さらに前進する時、人類の欠陥をも修理して行こうという補修性にまで到達する。

 われわれは、他人の欠点を自己の欠点として、人類の尻ぬぐいをする気持を、もたねばならぬ。日本人だ、韓国人だ、ソ連人だ、米国人だ、といっている間は、世界平和も生まれない。世界から戦争を払拭するには人々が、社会連帯意識に目ざめて、一つのものを分けあう気持にまで、ならねばならない。三代虫が、自分の子孫を養うため自分の肉を胎児に食べさせるような大きな愛があったら、世界平和は招かずして来る。われわれは、ケアをうけて喜んでいるだけでなく、進んで、敵国人にケアを贈る心持に、ならねばならない。  (一九五一年一月号)

  世界連邦と日本の覚醒

   ――トルマンの非常事態宣言に対処せよ――

 群衆は盲目だ。そして、レニン主義は、人間意識が唯物的に支配され、良心と全意識の目醒めを否定し、唯物的弁証法による暴力の組織化のみが、社会の根本基礎であると主張し、ソ連は機会あるごとに「共産主義」による人間の唯物化と、暴力による世界支配を実践せんとする為めに、奴隷解放のリンコルン精神までをも、資本主義の畜犬と呼び、こゝに、アメリカ民主主義と、ソ連の暴力共産主義が、朝鮮に於て一大衝突することゝなった。

 米の国防長官マシャル大将は、ソ連バルト海三国の動員を悲しみ、第三次世界戦争の避くべからざるを見透し、ついに、米トルマン大統領の「非常事態宣言」となってしまった。

 日本は、この二大勢力のあいだに、はさまり、「かまきり」の前の青虫のごとく、たゞ震い上がるほか道なき状態になってしまった。

 しかし、正義は必ず勝ち、宇宙精神と全意識に立つものは、必ず勝つ。日本は武装放棄を宣言し、世界をして武装を放棄せしめる時代と意識とを産み出さなければならぬ。そのためには、階級利己心と、階級意識による暴力戦争を放棄し、唯物資本主義でもなく、唯物共産主義でもなく、人格的全意識社会主義の世界連邦の建設の外に、世界を救う道はない。

 われらは党利、党略、私利、私慾を捨て、協同組織と、社会連帯責任の意識的結合により、侵略なき協同連邦世界を実現しなければならない。日本国民は、先覚者の自覚を以って立ち上がらねばならぬ。  (一九五一年二月号)

  世界連邦は心中に始まる

 世界連邦は心の中に始まる。それは発明であり、協力であり、寛容であり、奉仕であり、団結である。

 世界連邦を単なる政治運動と考へることほど浅はかな運動はない。世界連邦運動は永道の運動である。ロマ帝国は欧州を統一したがすぐ崩れてしまった。シヤレマン帝国然り、アレキサンデルの帝国然りである。武力や権力で嘗て、統一世界の出現した験はない。だから、レニンの「暴力国家論」に成功する望みは絶対にない。唯物共産党独裁国家を夢みているのは、発狂者の夢に近い。愛と十字架と、人の尻ふきする贖罪愛運動なくして、決して世界連邦運動はない。

 だからと言って、私は宗教運動のみが、世界連邦を造り得るとは言はない。世界連邦を創る為めには、宇宙意識を持たねばならぬと云うのである。小さな宗派心や、党派心に捉はれてはならないと云うのである。世界連邦が出来上った日に、その成員は必ず釈迦、孔子、キリストの精神を抱く人々が、経済的に、社会的に、政治的団結をしていることを発見するであろう。

 歴史は人間の意識覚醒の波瀾を記録したものである。人間意識は全覚醒から潜意識の睡眠状態にまですぐ転落する。マルクス主義は潜意識経済学である。だから精神分裂症を示している。世界の煩悶は、この精神分裂症を先ず治療してかゝらねばならぬ。我らは精神
病院の看護婦である。  (一九五一年三月号)