世界平和と思想の武装
世界平和と思想の武装
武田信玄は「民はわが城である」と称して城塞を設けなかったと云う。真の武装は人の心の底にある。それは暴力によって征服できない「霊魂力」にある。
「世界連邦」の思想は最もすぐれた武装である。それは何人をも奴隷にせず、すべての人が自主であり、総ての民族が、共助、共愛の世界国家を出現せんとする連帯社会である。
明治維新の際二百五十一の武装国家が、新しい明治政府を作って、自由民権の新社会に躍り出たように、世界連邦の運動は銃・剣を必要としない意識国家である。それは、暴力を超越した思想上の律法国家である。必要は新しい社会を造る。学問に国境がなく、郵便、電信の世界に国境はない。
人間が半意識的な本能の生活を送っている間、武器も原子爆弾も必要であると考えられよう。しかし人間が宇宙意識に目覚め、異人種、異民族が各々分担されるべき分業があることを思えば、新しき連帯意識の統合により、戦争の必要を感じなくなる。
食糧の窮迫、住宅の不足、被服の欠亡等の心配から、生存競争が起るとすれば、発明と発見によって、立体農法により山や海が食糧資源に変り、人造繊維の製造によって、被服のうれいがなくなり、火山灰や岩石コロイドによって住宅を容易に製造しうる時代がくれば、沙漠は田園と化し、つまらない人間間の戦争は喜劇と化するであろう。必要なのは思想的武装であり、全人意識の目覚めである。 (一九五三年九月号)