フランスの悲劇

  フランスの悲劇
   ――生活の自由なくして平和はない――

 仏印デエン・ピエン・フー要塞の陥落は、新しき悲劇を展開した。フランスは戦争すれば必ず敗けるにきまっているのだ。第一次大戦も、英米の応援で辛うじて敗北を喰い止め、第二次大戦も同様であった。そして此度もそれを繰返した。

 あれだけ自由を叫ぶフランスが、アジアの後進民族の独立に対しては、誠にケチでり、社会政策に対しては、資本主義国アメリカにさえヒケを取る有様である。そこをつけこんでのり出したのがホー・チミンの共産軍であった。

 中共と同じ立場に置かれたホー・チミンは蒋介石を追払った毛沢東のように、バオダイ皇帝を向うに回して大胆に農民大衆を自己の軍隊に抱き込んだ。

 安南人種は。民族的独立が欲しいばかりに、そして農民は土地が欲しいばかりにフランスとバオ・ダイ皇帝を見捨てて共産軍に忠誠を捧げるに至った。フランスが、あれだけ自由を叫びながら、新しい手を打ち得なかったところにフランスの悲劇がある。

 これはアメリカも余程目覚めなければ、折角世界平和の為めにつくすつもりでいて却って、大戦争を挑発する動機を造るであろう。結局、世界平和は日常生活の基礎の上に築かる可きものであることが、之でよくわかる。たゞ口先の世界平和は何にもならない。民族の独立、貧民の生活安定、これなくして真の世界平和は絶対に来ない。フランスがこの根本問題に一日も早く目醒め、古き搾取思想を捨てて、真の協同社会の為めに唯物暴力主義ならざる安南の独立を保証し、アジアの平和のためにつくすことを望む。  (一九五四年六月号)