黎明4

  永遠の春のために

 春だ、春だ、若芽の春だ! 木蓮はとっくの昔に咲き、桜も、若芽に先んじて咲き揃うた。地球の自転に伴奏して、大地は奇しき色調のメロディーを奏でる。大空は花曇りにかすみ、雲雀は、春の歓喜を急テンポで歌ひつづけてゐる。春だ。春だ! 水はぬるみ、萍草は、水底から浮かび上ってきた。青虫はそろそろ蛹を抜け出し、北の国の農夫は、雪靴を軒の下に放り込んで、甲斐甲斐しく畔道に急いで行く。
 ああ、しかし、大地の春に逢うたわれわれの姿の、何といふさもしいことだらう。田園は痩せ衰へ、街頭には、失業者が充ち、貧民窟には、刑余の前科者が充満してゐる。ああ、人生に春はないか? 野良に蕾は綻んだけれども、私たちの魂の蕾の開くのはいつか? 巷に愛は消え失せ、最微者は罵られ、利慾と暴力が、狼のごとく、人肉に飽く。人間の沙漠に、サフランの花はいつ咲くか? 友よ、鍬をもって、愛の種子を植ゑ附けよ! 愛の稲子を播かずして、愛の実を求めんとすることは、何といふ愚かなことだらう。今年も、人生の春に愛の花は見なかった。播けよ、育てよ。協同愛の精神を。いつの日にか、必ず、人生の春にも花が咲かう。私は春にそむいて大地に祈り、永遠の春のために、涙とともに、十字架の種を播かう。