黎明16 静思断片

  静思断片

 私は次の世界に移った行先づ神に、自然があまりに不思議に造られてゐること、私がそれを見ていつも驚いたことを報告しようと思ふ。
 放浪四年、私は日本の隅から隅まで歩いた。そして人間の住む世界が、自然に比べてあまりに平凡なのに驚いた。

 慌てるな、霊よ、少し鎮まって、神の可能性の方向に従って進路を決定するがよい。慌てて戸口を間違へないやうにせよ。

 今日も朝日の出る前に、曙の森を眺め、かすむ眼に大きな世界の開展を覗いた。もうこれだけで、私は宗教といふ言葉に盛れる以上のものを見た。
 峰より峰に私は飛ぶ。それは最も近い途である。低迷の世界に私は用事はない。

 茶褐色に、染まった茅の根に、二三日前に降った雪がまだ残ってゐる。雀が瓦屋根の軒先から地べたを覗いてゐる。欅が洋傘の骨ばかりをさしたやうに天空にひろがる。そんなことがあって少しすると、霞が森に帰り、たんぽぽが野路に舞ひ戻る。その時だ、私が裏の小溝にめだかの群の游いでゐるのを発見するのは、早速私もめだかになって流れの中を游いでみたくなる。