予言者エレミヤ2

  一 神様との初問答

 神様から エレミヤに お言葉がかゝりました。
『エレミヤよ。われは おまへを預言者にしたい。これは、おまへがお母さんの腹に居ないときから、そうきめていたのだ』と。
 このおことばは、エレミヤには不意でござりました。それでエレミヤは
『エヽ? 神様 私はまだ子供です。廿歳かそこらの子供なのです。誰がこんな青二才の云ふことなんか聞いてくれるものですか』
と、お答いたしました。
 然し エホバ(世界の創造主のこと)のお答は『なに? ちっささい? 心配はいらない。われの云ふことを受継ぎさへすれば、それで善いのではないか。人の顔など、畏れることはない。われがついてゐる』と仰せられて、その手をお伸べになり、エレミヤの口におさわりになって、
『サア、今日から おまへは万民万国の上に立てられた預言者だよ。世界中のことはおまへの勝手になるのです。抜かうが、植えやうが、建てやうが、覆さうが、それはおまへの権威で自由になるのです』とかうまた仰せられました。
 その中に神様はまた
『エレミヤよ、汝に何が目につく?』とお尋ねになります。
 それでエレミヤは
『春もまだまゐりませぬに巴旦杏の枝先に蕾がほころびかゝってをります』とお答いたしました。すると、
『そうだ善くあてだ。その通りだ。時は近いぞ』と神様は仰せられます。此度はまた『まだなにかないか?』とおほせられます。で、エレミヤはまた『沸へ繰り返った鍋がござります。湯気が北から南へ南へと吹き出してをります』とおこたへいたしましたが、御返事には、
『そうだ、エレミヤよ、北の国の凡ての族を、我はエルサレムに呼びよせて、此ユダヤの国を罰するのだよ。そのわけは此国は、われを捨てほかの真違った偶像を拝むからだ。汝はしっかりして、われの命令通りこれから云へ。それには人間の面を畏てはいけない。もしそんなことがあれば汝を大勢の愚者の真中でわれが辱しめるよ。サアいよいよ今日からおまへは王の敵、大名の敵、祭司、人民の敵になって世の罪と戦はねはならぬ……しかし、敗けはしないから大丈夫だ。われがついてゐる以上、おまへは、鉄で造へた柱か、銅でこしらへた塀の様なものだ。いや寧ろ金城鉄壁と云った方が善いかも知れぬ。しっかりしろ……』と仰せられました。
 この出来事は、今から二千五百三十六年程前(西暦紀元前六二三年)小アジヤのユダヤの国エルサレムから東北小一里も行った片田舎で、祭司の村になってをりますアナトテの一青年祭司ヒルキアの息子エレミヤの一身上に起ったことでした。
 時の王様はヨシアと申しましてアサ、ヨシヤパテ、ヨアシ、ヘゼキアの四人と並べて、ユダヤ王国二十一代の中でたった五人しかなかったと云ふ、信心深い王様でありました。
 調度この時王様は二十一歳でしたが、非常に神信心にこって、廿歳の時からもう偶像破壊にかゝり、牛の首をしたアシタロテ、『とらんぷ』の札についてゐる女王の様な偶像、パアルと云ふお日様の偶像、ガド(厄災の神)とかメニ(福の神)とかを片っぱしから粉末尽に打砕いていたのであります。
 これにはまた信心深ひ人達が関係して居りました。祭司ヒルキヤ、書記官ジャパン、その子アヒカム、ミカヤの子アクポル、宮内省の官吏でアサヤなど五六人のひとびとがその人たちでした。
 いよいよエレミヤは神様の代理となって、世界の闇と戦はねばならぬこととなりました。たとへ、上には名君ありとは云へ、下は実に迷信なもので、まだまだどうしてどうして遊廓もあれば、パマと申します、山の上の偶像礼拝所もある。高利貸もあれば、色神様もなかなか有難がられて居ると云ふ有様であります。さあ、どうしてエレミヤは年齢も行かぬその弱い身体で、此大軍と戦ふでありましやうか? (エレミヤ一章)