予言者エレミヤ6

  五 中命記の発見

 エレミヤが預言を初めてから六年目にヨシア王の治世の一大事件が起りました。それは宮の中で、祭司の長ヒルギアが、神様からモーセが授かりました申命記と申します書物を宮の修繕をいたして居ります時に見付け出したことでござります。
 此本は実に世界でも一番古い民法でありまして、それはそれは尊ひまた面白い珍らしい本でござります。個条から中しますと五十条計りのことを書いてありますが、神様にお仕へ申す方法から、喧嘩の仲裁のことまで書いてあると云ふ妙な本であります。
 然し此本の尊い本だと申しますのは此本の通りユダヤ国で実行されて居りますれば、今日の浮目は見無かったと云ふ事であります。然し悪が勝てば善が隠れる。この誠に善い法律の本も、ユダヤの国民が堕落いたしますと共にいつとはなし神殿の奥の反古箱にねじこまれてしまったのであります。それが今度の大工事に見付かった。調度七百年もねじこまれていたのであります。信心深いヨシア王の驚きはどうでしたらう。
 王はすぐ御命令をお出しになりました。『国民は此通り直に実行せよ』と。それ計りじゃありません。猶委しい深い意味が此本にあるのではあるまいかと、当時エルサレムで評判の女預言者、実はエレミヤの義理の叔母にあたるホルダと中します者の所へ神様にお尋ねしてくれと使をたてゝ問はせにやりました。
 と申しますのは、中命記のところどころ、国民がもし此法律を守らないならば、神様が罰をおあてなさると云ふ様なことを書いてあるのであります。処がユダヤでは殆ど何百年と云ふものは此法律を一つも守って居らないのでありますからそれがどうも心配になってならないのであります。
 さて ホルダは神様にお伺ひ申した結果どう答へましたか、
申命記に言いてある通り罰がある。然し、ヨシア王は此法律を見て心より悔ゐて居るから、その治めて居る世だけは災厄を見ずにすむ』
と預言いたしました。
 之を聴いて王様は一安心いたしました。然しすぐ、ユダヤエルサレムの役人達を皆神殿にお集めになりまして、此法律を読みきかせ猶改めて之を准守る様にお誓せになりました。エレミヤもその集会に出席いたして居りました。すると神様からお言葉がかゝりました。
『エレミヤよ、この契約はわれが汝等の先祖をエジプトから救ひ出した時に命令(いいつけ)たものだ、その時、我は汝らの先祖に此通り守るならば、汝らに乳と蜜の流るヽ地を与へ汝らは我民となり我は汝等の神となると約束したものだ。そして現在汝等は、その約束の土地に居る……』
 かう神様が仰せられた時、エレミヤは『アーメン』(その通りで御座ります)と申しました。
『……それで、エレミヤよエルサレムの住民に云へ。汝等は皆此契約の言に言かれてある通り実行するが善い。然し今日迄何百年此契約を守れと云ってきかせたが、未だに守ったことが無い。で、もう罰をあてるより仕方がない。が、そうなると。たとへ町に一つづゝの偶像があってもその災厄を喰止ることは出来ない』と。
 エレミヤは、かうお聞き申しますとすぐおきゝ申した通り街に出て預言いたしました。
 処が之を聴いた人々。悔改めるどころか反って怒り出しました。殊に郷里アナトテ村の人々の怒ったことゝ云ったら話になりませぬ。『エレミヤを殺してしまへ、あれや村の耻だ、村の屑だ』とエレミヤを追ひ廻しました。エレミヤは余りの悲しさに神様にお祈いたしました。
『神様、どうぞ私の仇を打って下さい』
 神様はすぐお答へになりました。
『よし。よし、アナトテの人々はおまへにエホバの名で預言してはならぬと云ふから、我はあの村を今に罰する。壮丁は剣で、子女は飢饉で、残る者は一人も無い様に亡ぼしてしまう』と