暗中隻語と尽きせぬ油壺

『尽きせぬ油壺』のテキスト化が終わった。昨日から『暗中隻語』の取りかかっている。ヘイスティング博士が9月、『A Few Words in the Dark: Selected Meditations』と題して翻訳出版した話を聞いたからである。

負けてはならじとばかりに、今、馬力をかけている。読売新聞に連載したコラムを書籍にしたものであるが、そのなかに「九八 湧くよ恩寵の油壷は!」があり、以下にそのコラムを転載する。

 湧くよ、湧くよ、恩寵の尽きざる油壷は湧くよ、光明を見失ひ、空しく枯れ果てた油壷を、涙ながらに覗く時、あ々、湧くよ湧くよ、エリシャの油壷は湧くよ、資本も無く、投資もせぬに私の油壷には、神の油が湧き溢れる。もうこの月は行詰つたと思ふ時に、また油が、下から湧き上つて来る。シナイの荒野に、解放せられたる奴隷の一群を救はんと、天より不思議なる食物が降つた様に、私の上にも、不思議なる食物が天から降つて来る。病床に横はり、労作らしき労作もしないに、荒野に預言者エリャの食物を運んだ鴉は、今も私を見捨てゝ呉れない。湧くよ湧くよ、恩寵の泉は湧くよ、神の顔を見ずとも、私は神の手を毎日見てゐる。枯渇した油壷の底より、その日その時、要用なだけ油を湧かして呉れるものは、全く神の御手ではないか。