貧乏の享楽

 二三 貧乏の享楽

 私は貧乏を享楽してゐる。
 多く持つことは悲しい事である。何も持たなければ、面倒くさいことがすくない。
 斯う云ふ意味は、何も衣食住に不足したい、と云ふ意味ではない。どうにか、こうにか喰へてさへ行けば、私は大きな家に住みたくない。私は森の中に往みたい。田螺と『めだか』と蓮の葉が、私の友達になつて呉れる間は、私は金持になりたくない。だから私の労働運動なども、多く持つ事の要求の運動ではない。
 生きて行くこと、働くこと、人間らしくあること、この三つの要求にしか過ぎない。私は貪ることの労働運動をしたことはない。