2012-03-16から1日間の記事一覧

傾ける大地-45

四十五『おい、杉本が妙なことをやりよるぜ』 カフェ東洋亭の、ドアを押して這入って来た細見徹は、おきんを対手に、ウヰスキーをちびってゐた服部政蔵にさう云った。『また碌な事せんのだらう、彼奴のこっちゃから』 服却はけげんな顔をして、細見にさう云…

傾ける大地-44

四十四 表に水を打って、店に這入った時、英世は、父が打沈んで帳場に思案してゐるのを見た。 英世は、父の悲観してゐる理由をよく知ってあた。この六月七月の二ケ月間、殆ど商ひが無かった。それは英世の名が新聞に多く出る毎に、田舎の小商売人は、杉本の…

傾ける大地-43

四十三 小学生は全部復校した。税金不納同盟は解散してしまった。そして屈辱的な調停に手打式を挙げた町内の有志者は、町制が変ることを予期して、町長及び町会に向って翻した反旗を一先ず巻くことにした。然し、長雨の関係でもあらう。五月一杯、とうとう水…