ロチェスター戦争(3)

 ドクター・カガワの身体は、一体どんな風にできているのだろう。6ヶ月にわたって、このような精力的を維持していることが不思議であった。不思議であるのに、なお余裕を示して、空を飛び地を走り、ある時は1日のうちに11時間立ったまま、一つの集まりから他の集まりにと講演をつづけた。
 もし小閑をうることがあれば、自然科学や哲学や経済学に関する書物に、不自由な眼をつかっている。超人的異常力というべきか、現代の奇跡というべきか、不思議でたまらなくて、カガワに随行する委員の一人はついに質問した。
「ドクター・カガワはどうして、そんなに精力がつづくか」
 カガワは平気な顔で答えた。
「私が生かされていることは私も不思議です」
 ボストンはアメリカの建国当時にさかのぼることのできる歴史的な都市で、市民は知識的であり、伝統の重んぜられるところである。従って集会を催し、講演を試みることは至難の場所とされているのであるが、ドクター・カガワは、多くの魂をひきててて驚くべき効果を収めた。
 中でも、この講演の最も大きな反響として、ボストンの百万長者フエリネの決心があげられる。フエリネはドクター・カガワの講演をきいて、感奮をおさえることができず、私財100万ドルを提供して協同組合のデパートを経営したいと考え、カガワと懇談した。ドクター・カガワも彼の協同組合に対する理解と決心とを深く賞賛して、援助の労を惜しまぬ旨約束したとのことである。(横山春一『賀川豊彦伝』から転載)