埼玉新聞に綴られた賀川の農村時計物語(8)

 能率給制(スライディングスケール)を採用 生活の再建と生産増強が目標
                      昭和22年06月26日

 農村時計の試み
 南桜井村農村時計工場では県下の事業場にさきがけて全工員1000余名の賃金日給制を月給能率給に改めるため先ごろより数回にわたり、従組側と折衝中であったが、大綱の交渉まとまり7月20日から月給能率給制を実施することになった。
 同工場は目覚時計および米国式バリカン、歯形スイッチの製作も行っているが、同工場はかつてぼう大な軍需工場を時計工場として新たに発足した結果、昨年上半期は生産能率あがらず赤字つづきで、そのため一時従組側は産別に加入し労資の闘争をつづけて来たが、本春以来従組側は態度を転換し生産倍加による工場再建を企画し、これを待遇改善素地とすべく産別をも脱退、総同盟に加入、強力なる生産倍加運動を展開した結果、生産能力も好転、その一例として目覚時計の月産は2万個に及びさらに8月の輸出開始までには3万個にこぎつける増産意欲に燃えており、月給能率給制実施と共に従組各自の生活再建に希望を燃やしている。

 県下で2工場のみ【梅沢従組副組長談】工場再建に全工員が一体となり生産の倍加に邁進することが第一であり、会社側での工員の人格を認め生活向上のため日給制も月給能率制に改めるのですから工員も責任と義務においても能率を上げることが第一義で、月給制になったからとて、なまける工員があれば従組で自主的な制裁も考慮しています。このスライディングスケールを採用しているのは県下では日本ピストン工場一つだけです。

 大臣副賞の目覚時計 昼夜兼行で製作にがんばる
 月産2万個の目覚時計製作にこぎつけた北葛南桜井村農村時計工場では、今回全国大小麥供出完納成績優良農家に、農林大臣副賞として贈られる目覚時計の大量注文に目下昼夜兼行でその製作を急いでいるが、同工場は先に輸出時計の見本製作も完了して輸出専門工場としての体制にあったが、今回、その大量注文に、時計製造部では職場大会を開き、農民の誠意に贈る時計は1個でも不良品があってはならぬと部品製造部毎に指導員をもおき製品を厳選して期日までに納入することになっている。
 なお同工場では報奨用としての農林省発注のアメリカ式バリカン製造にも月産3万丁の能率を上げている。