賀川豊彦 広がる再評価 貧困者救済から100年、自伝小説を復刻 【産経新聞】

 近代日本を代表する社会運動家で伝道者の賀川豊彦(1888〜1960年)が、貧困者を救おうと、神戸の貧民街に身を投じて今年は100年の節目にあたる。大正時代にベストセラーになった自伝的小説「死線を越えて」が、今春復刻されるなど、賀川の功績を再評価する動きが広がりを見せている。

 賀川は神戸生まれ。キリスト教の洗礼を受け、100年前の明治42(1909)年から13年間ほど神戸の貧民街で保育を手がけ、無料の生活相談に応じたり、診療所を設立するなど献身的に救貧活動に努めた。その後、生活協同組合の創設運動などの先頭に立った。世界連邦建設同盟(現・世界連邦運動協会)の結成といった平和運動は国際的にも評価され、ノーベル平和賞の候補に推された。

 「死線を越えて」は昨年、書店をにぎわした小林多喜二の小説「蟹工船」が発表される9年前の大正9(1920)年、改造社から出版された。賀川の半生が描かれ、主人公が病を克服し、神戸の貧民街で弱者救済にあたる姿が描かれている。

 小説の前半部分については賀川が10代で書いて小説家の島崎藤村に持ち込み、断られたエピソードがあるという。
 今回、入手困難になっていた同書を復刊したPHP研究所の編集担当、前田守人さんによると、原本は上中下の3部作。上巻だけで200版を重ね、ミリオンセラーとなった。続編も入れると400万部以上を売り上げたという。

 今後、賀川の妻、ハルの日記などを集めた関係資料集(全3巻)が6月に緑蔭書房から刊行される。神戸では今秋に神戸100年映画祭で「死線を越えて」が上映され、12月には献身100年記念式典が開かれるなど、賀川を顕彰するイベントは各地で予定されている。

 前田さんは「格差社会の今こそ、賀川さんの互助精神を見直し、社会のひずみを解消する必要がある。これからの社会のあり方を考える若者に手にとってもらいたい」と話している。(村上智博)産経新聞2009.5.25 08:16

 MSN産経ニュースから転載