1945年8月15日、蒋介石総統の告文

以下は、1945(昭和20)年8月15日午前11時(日本時間)、蒋介石総統が、重慶より全中国と全世界に向けてラジオ放送されたものの全文です。
 翻訳、長谷川太郎
 掲載 佐藤邦宏 蒋介石総統の告文

 「全中国の軍官民諸君、並びに全世界平和愛好の諸士、われらの対日戦は、ここに勝利を得た。『正義は必ず独裁に勝つ』との真理はついに現実となった。これはまた、中国革命の歴史的使命の成功を、物語ったものである。
 わが中国が、暗黒と絶望のさ中に奮闘すること8年、堅持してきた必勝の信念は、本日ついにその実現をみた。
 現在目前に展開しているこの平和に対し、われらは開戦以来、忠勇犠牲となった軍民諸先烈、並びに正義と平和のため、共に戦った友邦に、深く感謝を捧げよう。
 特に国父孫文が艱難辛苦、われらを革命の正確な路線に導き、今日の勝利をかち得たことに対し、感謝すべきである。また世界のキリスト教徒も、あい共に、公平仁愛なる神に対し、感謝の誠を捧ぐべきである。
 わが国の同胞が開戦以来8年、その間に受けた苦痛と犠牲は、年ごとに増したが、必勝の信念もまた日ましに強まった。殊に被占領地区の同胞は、限りなき虐待と奴隷的屈辱をなめつくしたが、今日すべてが解放され、再び晴天白日にまみえることができた。
 ここ数日来、各地に沸き上がる軍民歓呼の声と、溢れ出る安堵の表情は、実に被占領地区の同胞が、解放されたからに他ならない。
 現在われらの抗戦はついに勝利を得たが、まだ最終的勝利ではない。
 この戦勝のもつ意義は、単に世界の正義の力が、勝ちを制しただけに止まらず、世界の人類もわが同胞と同様、今次の戦争が世界文明国家参加の、最後の戦争になることを切望していると信ずる。
 もし今次の戦争が、人類史上最後の戦争となるならば、たとえ形容不能の残虐と屈辱を受けたとはいえ、けしてその賠償や戦果は問うまい。
 わが中国人は最も暗黒な絶望の時代でも、なお民族を一貫する忠勇仁愛堅忍不抜の偉大な伝統精神を堅持してきた。これは、正義と人道とのために注いだすべての犠牲は、必ずや相応の報酬が得られると、深く信じてきたからである。
 今次の戦争から、わが中国が得た最大の報酬は、連合国との間に生じた、相互尊重の信念である。この連合こそ、青年の熱血と肉弾によった築かれた、反侵略の巨大な堤防であった。
 そしてこれに加盟したすべてのものは、ただ今次だけでなく、「人類尊厳」の、共通理想実現のため、永遠に団結した同盟の友である。
 これは連合国戦勝の最重点基礎であり、たとえ敵がいかなる分裂離間の陰謀を挑発しても、絶対に破壊はされないのである。
 今後は洋の東西を分かたず、人種の如何を問わず、全人類は日をおって、加速度的密接に連合し、ついには一家族のようになるものと、信ずるのである。
 今次の戦争は人類の相互理解、相互尊敬の精神を高め、相互信頼の関係を樹立した。さらに世界大戦と世界平和は、不可分の関係にあることも立証した。
 これにより将来は戦争の勃発が、一層不可能になった。ここまで述べてきた余は、「己に対する如く人にもせよ」「汝の敵を愛せよ」と命じられた、キリストの教訓を思い出し、誠に感慨無量である。
 わが中国の同胞よ、「既往をとがめず、徳をもって怨みに報いる」ことこそ、中国文化の最も貴重な伝統精神であると肝に銘じて欲しい。
 われらは終始一貫、ただ侵略をこととする日本軍閥のみを敵とし、日本人民は敵とししない旨を声明してきた。今日敵軍はすでに連合国に打倒されたので、一切の降伏条項を忠実に遂行するよう、もちろん厳重に監督すべきである。しかし、けして報復したり、更に敵国の無辜の人民に対して、侮辱を加えてはならない。われらはただ日本人民が、軍閥に駆使されてきたことに同情を寄せ、錯誤と罪悪から、抜け出ることだけを望むのである。もし暴行をもって敵の過去の暴行に応え、奴隷的侮辱をもって、誤れる優越感に報いるなら、怨みはさらに怨みを呼び、永遠に止まる所ががない。これはけしてわが正義の師の目的ではなく、我が中国の一人一人が、今日特に留意すべきところである。
 全国の同胞よ、現在われらは、中国を侵略した敵の帝国主義を打ち破ったが、まだ真の勝利の目的には達せず、侵略の野心と武力は、徹底的に消滅しなければならない。われらは更に勝利の代償が、けして傲慢と怠惰でないと、悟るべきである。戦争が確実に終了した後の平和な国土には、今後戦時同様の苦痛と、戦時以上に努力し、改造建設すべき艱難極まる任務が、山積みしている。或る時期には、戦時より更に厳しい難問が、随時随所に吾が頭上にふりかかると覚悟すべきである。
 ここで余は、まず最も困難な任務を申し渡したい。それは軍閥から誤った指導を受けてきた日本人民に対し、自己の犯した錯誤と失敗とを、如何にして納得させ、かつ心から喜んで、わが三民主義を受け入れさせるかである。
 そして公平正義の競争が、彼らの武力略奪や独裁恐怖の競走より、真理と人道の要請にかなっているかを、認めさせることで、これこそわが連合国に託された、今後の最も困難な任務である。
 世界永遠の平和は、人類自由平等の民主精神と、博愛に基づく相互協力の基盤の上に、築かれるものと確信する。それゆえわれらは、民主と協力の大道を驀進し、もって世界永遠の平和を、協力して擁護してゆかなければならない。
 同盟国の諸氏並びにわが全同胞よ、武力によってかち得た平和は、必ずしも恒久平和の完成ではない。日本人が理性の戦場においてもわれらに教化され、もって徹底的に反省改心するよう導かれ、われらと同じく世界平和愛好者になった暁にのみ、今次世界大戦最終目標、即ち人類希求の平和が初めて達成されると信ずるよう、切望する次第である」。